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最愛の子のeikotomizawaのレビュー・感想・評価

最愛の子(2014年製作の映画)
3.9
三年前に誘拐された息子を追うロードムービーのようなものを予想していたら、事態はより複雑な展開へ。

ネタバレはしない方がいいと思うので観た人向けの補足でも書きます。

・ポンポンが誘拐された南山区は留学や仕事柄、住んでいたので土地勘がある。ここは香港と大陸の玄関口で、深圳湾に面しており、序盤のダウンタウンのような場所もあれば、国内最大手のハイテク企業の本社や外資系も多く、日本人学校もここにある。いわゆる中~超高級富裕層向けの居住エリアや商業施設も混在しており、深圳を東京で例えるなら、南山区は港区・渋谷区・江東区をドッキングしたような場所。この20年で、不動産バブルに煽られ一時は地価が40倍くらいに跳ね上がっていたようなエリアなのだ。つまりポンポン一家も、高度人材でなくとも大陸規格で見れば地方農村の稼ぎとはまるで桁が違うのである。

・当時の深圳の一人っ子政策の締め付けは特に厳しい時期だったとはいえ、出産場所で籍を取れた時代なので、特区で大陸の法が適用されていなかった香港で出産すれば出産許可を取らなくとも、ニ児目を産んでも香港籍になって理論上合法で兄弟を設ける夫婦も多かった。そんな調子で、政策遵守を求められる公務員のエリートなんかも兄弟を増やすために親戚や国外在住の友人と子供を養子縁組させて事実上クリアすることは一般常識の範疇。社会主義国を生きる者にとっては「上に政策あり、下に対策あり」が人民のライフハックなのだ。しかしどちらにせよ、そんな抜け道はアイデアを実行できる資金がある人に限られる。

その上で深圳で出産許可を律儀に取ろうとしていた時点で、互助会のリーダー夫妻は真面目でズルをしない、珍しいほど勤勉な人民だということが伝わるし、だからこそ辛い。一人っ子政策は、子を夭逝、あるいは誘拐された両親にとっては堪らないくさびなのだ。(更に言えば一人っ子政策は人手が必要な農村部と人口過密の都市部では厳格さが異なるので田舎は緩く、よって兄妹の出自についてすぐに疑われなかったのだと思う)


演出の過剰さが最初はちょっと気になっていたけど、映像作品の大味演出が好きなお国柄だと思うのでそこはだんだん気にならなくなってきた。ヴィッキーチャオは稀に見る波瀾万丈な女優人生だと思うけど、難役もここまで演じ切るナチュラルさや実力は随一なので、やっぱり現役で在り続けてくれることこそが公益に帰するんじゃないかなあと思っちゃうね。政治に左右され続ける大陸の芸能界も大変だわ。
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