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最愛の子のTSのレビュー・感想・評価

最愛の子(2014年製作の映画)
4.2
【血筋か年月か…】88点
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監督:ピーター・チャン
製作国:中国/香港
ジャンル:ドラマ
収録時間:130分
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こういうのを一言で表すのは適切ではないかもしれませんが、一言で表すと『八日目の蝉』の強化版でした。あちらの作品と似た設定を持つ今作ですが、今作は中国の悪しき政治についても考えさせられるので非常に秀逸な作品と見受けられます。親子とは一体何なのか?その究極の問いについて描く、儚くも素晴らしい作品です。

2009年の中国。ネットカフェを営むティエンは元妻のジュアンと、3歳の子であるポンポンの親権について争っていた。結局、夫のティエンがポンポンの親権を獲得するのだが。。

パッケージにおいても言及されてるので述べてしまいますが、中国で問題になっている児童誘拐を題材にした作品です。ふと目を離した隙にポンポンは何者かに誘拐されてしまいます。日本ではなかなかあり得ない事情ですが、中国における年間の児童誘拐件数はなんと20万件。その内、元の家族に引き戻されるのはたったの0.1パーセント、つまり200件足らずということだから驚きです。子どもは農村においては立派な労働力になるため、その理由で誘拐をしたりするようですが、単に身代金目当て、そしてあまりにも有名な「一人っ子政策」が影響しているかと思われます。
一人っ子政策は社会科の地理でも頻出単語でしたが、2016年1月をもってこの政策は廃止されます。その後は俗に「二人っ子政策」と言われるようになり、二人目までの出産は合法とされていきます。子を産むというのは最も本能的な生物欲求の一つだとも言えます。それをコントロールしないとこの先やっていけないという、中国という国そのものに問題があると思われますが、こういう政策の結果、このような誘拐事件が増えているということに疑いの余地はなさそうです。

中国の人口は世界第一位ですが、一人っ子政策の影響もあり将来的には第二位のインドに抜かれる様です。人類の歴史において、一つの国に10億人以上の人間がいるということは初めてであります。僕が思うのは、一つの国で管理できる人口のキャパシティが既にオーバーしてるのではないかということです。四人家族より、十人家族の方が負担が大きいように、一政府が管理出来る人口を大きく超えているかと思います。従って、中国は四つくらいに分断されるべきだと思います。と、軽々しく述べましたがその分断を行うにあたってもかなりの揉め事があると思います。実現は難しいですが、このままでは中国の未来は暗いかと思われます。

さて、今作の内容に関してですが、鑑賞者の感情移入の変化が興味深いです。最初こそ我々鑑賞者は、誘拐されたポンポンの両親に同情をしますが、中盤でポンポンが発見され、何も知らない誘拐した男の妻を見ていると、不思議と彼女の方に感情移入をしたくなるのです。その妻を演じたのは本作の恐らく主人公であるヴィッキー・チャオです。彼女は亡き夫に嘘を付かれていたということになります。
法的なこともあり、無論本物の両親にポンポンは引き渡されるのですが、ポンポンは頗る嫌がっています。それは当たり前の感情でして、3歳の時に誘拐されたことなんてポンポンは覚えていないからです。その後三年も、その誘拐犯の妻に愛情を持って育てられたわけですからポンポンが嫌がるのは当たり前です。
そう。本物の両親も、誘拐犯の妻も、そしてポンポンも辛いのです。誰が悪いのか?狭く見れば誘拐犯でしょう。彼が誘拐しなければこんなことにはならなかったからです。しかし、巨視的に見れば最も悪いのは中国政府と言えるでしょう。冒頭でも述べましたが、これらの誘拐事件が起こってしまう原因は何なのか?そこを突き止めれば見えてくる問題でもあります。

血筋なのか、年月なのか。法的、世間的には血筋こそが家族とみなす最大の根拠と言えますが果たしてそうなのか。この難しい問いについて、中国の事情もからみ合わせて描いてくれています。同じ年頃の子を持つ夫婦には特に響く作品かと思われます。オススメ。
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