きざし

たかが世界の終わりのきざしのレビュー・感想・評価

たかが世界の終わり(2016年製作の映画)
4.5
これからの映画界にとっての〈希望〉となり得る、

新世代の担い手、グザヴィエ・ドラン。


彼の作品は、フィルマークス以前から観てて、

他の映画サイトのレビューの数だけでは飽き足らず、

他に彼の作品のレビューを読める所はないかな??

と、探して見つけたのが、フィルマークスでした。


まだ私がレビューどころかフォローのやり方すら知らず、

作品のトップに出てくるレビューを最新順に読んでいた頃のことです。


その頃から、すでにドランは驚くべきスピードで人気を博し、

彼のファン数が毎週100人ずつ増えていく様を見て、驚いたものです。


そんな彼の最新作が、とうとう公開される…!!!


彼の最高傑作とも名高い「mommy」から丸2年!!


ドランにしては、かなり空いたよね。

一日千秋の思いで待ち続けました。


今回も、「トム アットザ ファーム」のように、戯曲を映画化した作品です。


あらすじは、こんな感じ…

ゲイであり、作家活動をして成功を収めている、ルイ。

彼は不治の病に冒されていた。

家を出て依頼、一度も帰っていなかったが、とうとう12年ぶりに帰省を決意する。


自分の死を家族に告げるために、、、


この戯曲の原作者も、実はゲイでエイズに感染し、若くして亡くなっている。


そして、ドラン自身もゲイであり、

才能を認められているが、

母親との関係は、複雑なようである。


この主人公ルイは、そんな彼らの分身ともいえるキャラクター。


序盤の音楽から、すでに心奪われる!!

今から、何が始まるのか…?

そんな、ルイの心境を私たちも一緒にドキドキしながら見守るのである。

車から、行き交う人と交わす視線。
不安げな音楽。


かれを迎えるのは

ケバくてテンションの高い母親、

ルイの事を殆ど覚えておらず、憧れている妹シュザンヌ、


ルイとは、一緒に育った正反対の兄アントワーヌ、

そして、兄アントワーヌの妻であり、初めて会うカトリーヌ。


この5人の不協和音が織りなす会話劇が、

時に激しく、時に不自然に、

なんとも言えない居心地の悪さを上手く引き出している!


ルイは、物静かだ。

あのまくし立てるようにウルサい家族の中にいて、

だれよりも大人く、殆どしゃべらない。
主人公なのに…

そんなルイの事を家族みんなが理解したいのに、理解できない。

彼が、何を考えているのか…?

彼は、一体なぜ急に帰ってきたのか…?

あまりにも長い年月が、その理由を聞くのを不安にさせる。


みんな思い思いに、彼を気遣う。

母は、料理に腕を振るい、着飾る。

妹も、慣れない化粧をし、部屋に招き入れ、
彼が送った絵はがきを見せて思いを告げる。


兄も、不協和音に苛立ちながらも、

弟の真意に気づいたのか、二人でドライブにと、誘う。

でも、悲しいかな、、、
誰も、本当に理解できないのです。
ルイは、心を閉ざしてしまっている。

愛しているのに…
力になりたいと、思っているのに。


言葉にならないそれぞれの思いは、
苛立ちとなり、
場の空気がおかしくなる。


ルイに一番近い所にいたのは、
初対面のカトリーヌだった。

彼女の存在は、この中での救いでした。


涙が止まらなかったのは、ルイと母親だけのシーン。

「いつくになったの?」

「34才になったよ」

「あぁ、もうそんな年になったのね。
私も同じだけ年をとったわ。」


12年という長い年月は、二人にとっても、
共に過ごせなかった年月の溝
となったのかな。


「あなたのことは、理解できない。
だけど、愛しているわ。」

首筋に振りかけたお気に入りの香水を嗅がせるようにして近づき、抱擁を交わす二人。


音楽は、相変わらずのドラン節で胸が高鳴る!!

音楽とともに流れる過去の思い出。

それが、あまりにも美しくて、、、

まさか、
「恋のマイアヒ」を聴いてこんな感情で涙が出る日が来ようとは…!?


映像と音楽。

一見合ってないようなのに、何故かドンピシャ!
と、感じてしまう…!! 


その、ドラン独特の感性は、今回も、健在でした!!!


この、「恋のマイアヒ」と、

エンドロールのmobyのヒット曲「natural blues」は今後聞く度に、

この作品を思い出すでしょう。


最近の映画にありがちな、

あらゆるジャンルを贅沢に入れ込んだ作品とは、対極に位置する、

ある意味古い正統派な映画ともいえる、ドランの作品たち…


私は、あらゆるジャンルまぜこぜな、現代の映画が大好きですが、


何故かドラン作品には、惹かれるものがあるんです。


それは、彼が作品を作る熱量だったり

思いが、ものすごいエネルギーとして、感じられるのと

映画作品としての、クオリティの高さ。

脚本の巧みさ、

役者の演技の素晴らしさ、

映像、音楽の効果的な魅せかた…


そういった、映画が持ちうるすべてのものが、余すことなく最高水準で活かされている!!


映画という媒体において、

こんなにも五感を刺激される作品を創れる人は、そうそういない。


これからも、是非長生きして、
私たちに素晴らしい映画という潤いを与えてくれることを、
切に願います。
きざし

きざし