けーはち

屍者の帝国のけーはちのレビュー・感想・評価

屍者の帝国(2015年製作の映画)
3.4
伊藤計劃×円城塔原作。19世紀、ヴィクター・フランケンシュタインによって開発された屍体蘇生術が実在して、一定の作業や戦闘をこなせるように制御された「屍者」という存在が一般的に普及したという世界観のSFアニメ作品。

★衒学的BLゾンビ映画

「ゾンビを制御する技術が確立された仮定の19世紀世界」というSFだが、実在の人物に加え、主人公ワトソンをはじめ多くの著名な古典的フィクションのキャラが登場するクロスオーバー・パロディ的な作品。

早逝の作家・伊藤計劃の遺作(草稿30枚を元に友人・円城塔が完成させた)が原作だが、彼の小説は衒学的で、非常に情報量が多いので、映画にすると大変に難解。そこをうまく見せるのが、製作者の腕の見せ所なのだろうが。

同作者の『ハーモニー』は優しい世界、管理が完璧に成された社会のディストピアSFだけど、映画としては世界の閉塞感を自殺サークルを作る少女たちの危うさに投影して観られるようになっている。本作では「魂とは何か」という問いを根にしながらも、ワトソン達(さらには屍者・伊藤計劃と、彼の想いを引き継いだ円城塔)のボーイズ・ラブという視点で観るべきだろう。実際の彼らがそういう関係下だったかはさておいて、分かりやすい表象として。

★生者のための屍者の物語

とは言っても、本作の結末をどう捉えるかは、きわめて難しいものになっている。主人公ワトソンから容易に想像つく通り、彼は医者となり新たなパートナーであるホームズと関係を築き、別の物語を紡ぎ始めるが、いくつか疑問は残る(かつての盟友フライデーとはどういう関係になったのか、屍者としての彼は新たな生命を得られたのか、ワトソンの記憶は、あるいはメタ的な意味で世界が書き換えられ屍者技術自体無かったことになったのか等)。

現代劇ではなく19世紀を舞台に、しかも実在の人物と有名な数々の創作キャラをまぜこぜに客演させるスタイルを取ったのも、今を生きている人間にとって、すべてが今の世界の基になる屍者に相違ないからだろう(生者には物語が必要だという発言も劇中には登場する)。実在であれ創作であれ「屍者を忘れず、その想いを受け継ぐ」──伊藤計劃(Project Itoh)はそんな想いで紡がれているのかなと思った。

いずれにしても映像化した際のエンタメとしての抜けが悪いのは、どうにも否定できないんだけどね……。