蛸

猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)の蛸のレビュー・感想・評価

4.2
寓話から神話へと濃度が増した、新シリーズの三作目。
冒頭の、最新装備に身を包んだ人間たちの身体をエイプたちの槍が貫く瞬間から、彼らの活躍にカタルシスを感じずにはいられません。観客は皆エイプたちに感情移入するでしょう。まさしく「人間嫌い」のジャンルとしてのSFの面目躍如と言えると思います。しかし、このようなエイプたちの活躍する場面はほとんどオープニングのみで終わってしまいます。
そのため『WAR』というタイトルからイメージした物語に比べると些か壮大さに欠けると思いましたが、寓話としての普遍性は相変わらずです。新シリーズからは、旧シリーズの前提であった人種問題を踏まえてさらにその先にある普遍的な人類文明の問題にまでお話の射程を広げようとする意欲を感じます。しかし、今作では人間側の性格描写がほとんどないために、これまでにも増してシーザーの物語という雰囲気が濃厚でした。それでも神話的な象徴性は随所から感じられますが。

前半のシーザーたちの旅の場面ではロードムービー的な雰囲気が濃厚です。もっと言えば、銃を背に馬を操り、夜には焚き火を囲む彼らの姿は、観客に西部劇的な画作りを意識させます(人間たちがフロンティア(辺境)に追いやられ、その生存圏を縮小させているという意味では全く西部劇の逆を行く展開だとも言えますが)。
度々挿入されるエイプと人との対話の場面は(そのカットバックによるまなざしの交錯は)種族の違いによって独特の緊張感に彩られます。交互に映し出される人間とエイプの顔は、その相似を、時にはその相異を強調しているかのようです。それだけに少女とエイプたちのコミュニケーションはとても美しい。
単純にエンターテイメントとしてのサービス精神に溢れているところも素晴らしいと思います。クルツ=カーツを意識したであろう大佐のキャラクターや潜入&脱獄パートがいちいち楽しい。
あえて欠点を挙げるとすれば随所に挿入される、物語の流れを停滞させるような感傷的な演出でしょうか。総じて「思っていたものとは違っていたがこれはこれで面白かった」という印象の映画でした。
蛸