惡

みちていくの惡のレビュー・感想・評価

みちていく(2014年製作の映画)
2.1
中上健次が最も妊娠に適した年齢は15歳だと宣っていた記憶があるが、本作を観たならもうそれは作家的空想に支えられたものだとわかるだろう。本作の魅力の大部分はジャケットにもなっているファーストカットのような脆弱でありながらも確かなエロティシズムに裏打ちされている。

「満月の夜に願いことをすると願い事が叶えられるんだよ」

DV画質の作品内で発話されると単調極まる会話もあいまって陳腐でしかない。付け加えておくが陳腐であること、それ自体が作品の好悪を決するのではない。おそらくこの作品はそのようなある種の陳腐さとはかけ離れた地平へ向かいたいのだ。それはハムスターのケージ内のように回ることしかできない陸上部での「運動」やロケ撮影にもかかわらず全編に漂う閉塞感と頻出する「ここではないどこか」を目指す言葉に表出される。ならば視点を失った私のような観客がどこへ向かえばよいのか。肉体だ。カメラの前で晒される彼女らの肢体は着衣の有無に関わらず、カットの意図など関係なしに扁桃体を煽情し続ける。二十歳そこそこの本作の監督は、醸成しきった自らの肉体にカメラを向けた。その覚悟だけでまず賞賛に値すると言えるのかもしれない。しかしこうして陳腐な言葉で語られてしまうほどに本作の語彙は貧困である。付け加えておくが他の自主製作映画(学生映画)と比べると本作の脚本は別段劣っているとは言えない。しかし表情豊かで饒舌すぎる妊娠適齢期の肉体と比べてどうか。スピルバーグの作品ならともかく、こうした自主映画に対して私が監督だったなら、などと宣うのは失礼極まりないが私はどうしても考えてしまう。自らの肉体に対して我々は黙するべきなのではないかと。
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