黒田隆憲

タルーラ 彼女たちの事情の黒田隆憲のネタバレレビュー・内容・結末

タルーラ 彼女たちの事情(2016年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

我々は重力という「足かせ」があるからこそ、宇宙に放り出されることなくこの地球で暮らしているわけだけど、もしその「足かせ」が自分のところだけフッと無くなってしまったら一体どこへ飛ばされてしまうのだろう。この映画はエレン・ペイジ扮するルーと、アリソン・ジャネイ扮するマーゴがそれぞれ自分の周りだけ無重力状態になって、必死で何かにしがみつくショットを映画のオープニングとエンディングに配置している。彼女たちの、「この世界の何処にも繋がっていない感覚」を比喩的に描いて見せているのだけど、家庭や仕事、或いはそれに付随する人間関係など、普段は煩わしく「いっそのこと無くなってしまえばいいのに」と思ってしまうような「足かせ」でさえも、我々をこの世界に繋ぎ止める必要な「重力」なのかもしれない。完全な無重力状態で生きていくのは、なかなか至難の技だ。

車で移動しながらその日暮らしを続けているホームレス同然のルーは、ひょんなきっかけで赤ん坊をホテルから「奪う」事態に陥り、彼女に愛想を尽かし出ていった恋人ニコの母親であるマーゴと2人で面倒を見るハメになる。母親に捨てられ人生を諦めきっているルーと、長年連れ添った夫が実は同性愛者で恋人と共に去ってしまい、可愛がっていたカメにも死なれたばかりのマーゴ。それぞれの「喪失」を抱えた2人は、反目し合いながらも少しずつ距離を縮めていく。大好きなエレン・ペイジの魅力が炸裂していたし、多くの人が指摘しているように、ちょっと『八日目の蝉』を思い出しました。

監督のシアン・ヘダーは、自身がベビーシッターをしていた時、育児放棄同然の家庭を垣間見て深く心を痛めた経験があり、それをもとに本作の脚本を書いたという。過去のトラウマや未来への絶望が複雑に絡み合って身動きが取れなくなっていたルーとマーゴの人生が、赤ん坊という降って湧いた「重力=足かせ」によって少しずつ動き出していく様を、時おりユーモアを交えながら繊細に描いていた。

僕をこの世界に繋ぎとめている、僕にとっての「重力」って何だろう?などと考えながら観ていた。にしても、Netflixの字幕は相変わらず酷いね。
黒田隆憲

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