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サウルの息子のKUBOのレビュー・感想・評価

サウルの息子(2015年製作の映画)
4.0
今日はカンヌ国際映画祭グランプリ、ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞受賞、アカデミー賞外国語映画賞ノミネートの「サウルの息子」を見てきました。

カメラワークがたいへん特徴的な作品だ。常に主人公サウルの斜め後方から撮り続ける。したがってほとんどが後ろ姿だ。主観視点ではなく主人公の後頭部を見続ける形での一人称視点で作品は進んでいく。

「ゾンダーコマンド」という言葉を知っているだろうか? 第二次大戦時、ユダヤ人の絶滅収容所アウシュビッツなどに存在したある仕事をする人間の呼称。ユダヤ人の中から選ばれて、同朋の衣類を脱がし、ガス室に送り、死体を焼却所に運び、脱いだ衣類から金目のものを見つけてはドイツ人に渡し、ガス室の掃除をし、焼却後の灰を川に捨てに行くところまでする「ユダヤ人」たちだ。まさに地獄である。ただし映像は常にサウルにピントがあっていて、死体を含めてサウルの周りの光景はぼやけて見えるように撮影されている。これは残虐なシーンをただぼやかしているというよりは、そういう仕事を余儀なくされているサウルが見ないようにしているイメージなのかもしれない。またデジタル時代にあえて35mmで撮られた狭い視野は、サウルと同じ視覚的体験だけを観客に共有させようとする監督の意図だろう。

そのゾンダーコマンドのサウルは、大量の死体をガス室から運び出す際に、まだ息のあるひとりの少年を見つける。少年はすぐに殺されてしまうのだが、サウルは「自分の息子」だと言い出して、埋葬してラビに祈りを捧げてもらおうと奔走し始める。並行して進むゾンダーコマンドたちの反乱計画。銃弾が飛び交う中、少年の遺体を抱えたまま走るサウルの先に待っている結末は…。

見終わった後、視覚的にも、精神的にも、どっと疲れる作品です。監督が意図した通り、追体験をした感じです。極限状態の中で人間性を失わずに生きようとした男の物語。ずっしり重い作品です。
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