ロクシ

サウルの息子のロクシのレビュー・感想・評価

サウルの息子(2015年製作の映画)
4.6
アウシュビッツの絶滅収容所(人間屠殺場)で、同胞の死体処理係をさせられたユダヤ人、通称ゾンダーコマンドの日常を物凄い臨場感で体感できる映画。
アウシュビッツに関してははBBCのドキュメンタリー「アウシュビッツ ナチスとホロコースト」で見たので、ゾンダーコマンドについても少し知っていた。
ドキュメンタリーだと当時の画質の悪い白黒映像にナレーションが入って(うわぁきついなぁ…)とホラー映画のように俯瞰的に見てしまうし、自分に置き換えて考えることはやっぱりどうしても難しい。
この「サウルの息子」は、ゾンダーコマンドのサウルをGoProで撮り続けた密着番組のような映像で、ものすごくリアルにアウシュビッツでの死体処理業を体感させてくれる。
恐怖感、淡々と人が死んでいく異常さ、終始監視されていて手を止めてはいけない緊張感を感じられた。
実はこの映画の本当に大事なことはサウルの後ろにあるぼやけた背景と、悲鳴や囚人リーダー(カポ)の怒号に隠されているのだけど、サウルの顔が邪魔(笑)で見えない。
なぜぼやけているのかというと、サウル自身が、日々の死体処理作業の中でそれを「見ることをやめ、考えることをやめた」から。
また、死体のエキストラをそのまま映してしまうと、この凄惨な事実がただの作り物の映像になってしまうからだそう。
詳しくは映画批評家の方の解説がyoutubeにあがっているので見ていただきたいです。

最初に見た時は無表情のサウルの顔ばかりが写ってて退屈だなぁとか、
どうして急にあの少年が自分の息子だと思ったのか、
仲間達が反乱の重要な計画をしているのに上の空で"息子"の埋葬に執着し続けたのかわからなかったけど、
解説を見てこの地獄で彼の心はやっぱり壊れてたんだなと、それでも全てを灰にせず土に埋めることで息子(=自分達の消される未来)を残したかったんだなとわかった。
ストーリーはシンプルだけど、それよりもサウルの背景に目を凝らすことで、ホロコーストモノの映画の中で一番リアリティと恐怖感を感じた映画でした。また見たいです。
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