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サウルの息子のFullのレビュー・感想・評価

サウルの息子(2015年製作の映画)
4.2
クローズアップショットで主人公サウルの背景に残酷な殺戮の様子が遠巻きに淡々と映り込む様は絶句だった。

ホロコーストを扱った映像作品、ドキュメンタリーや本は数多くあり、ナチスドイツが行った残酷な行為や生存者たちの言葉から当時のことを想像し、心を痛めることはあった。しかし当事者ではない私たちは彼らの苦しみや屈辱を真に感じることはできない。(宗教が身近でない日本人には特にそうだろう)
この作品はそんな私たちが、ゾンダーコマンドという同胞の命を奪う作業の一旦を担っていたサウルという人物を通して、強制収容所に満ちた苦しみ、諦め、屈辱や狂気の空気感を限りなく身近に感じられる作品だと思った。

詳細が語られないこの作品で、謎が残る部分は多くある。
私はサウルが見つけた「息子」は本当の息子ではないと思っている。彼が埋葬しようとしていたのは、たまたまみつけた、ガスで死に損ねてしまったユダヤ人の少年。
あの残虐な行為に加担せざるを得ない状況で、同胞に対する贖罪のような気持ちを「息子」を埋葬することで保とうとしていた。だからこそユダヤで正統な埋葬方法ではない火葬を嫌がり、ユダヤの正式な埋葬をすることに異常に固執し続けたのではないか。

反抗を計画する仲間からすれば自分勝手な行動をし続け、それでも何もできずに無力に終わったサウル。しかし彼がしようとしたことは、あの状況で「自分はユダヤ人である」もしくは「自分は自分自身である」と思うために出来る限られた小さな抵抗だったのではないかと思う。
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