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ロブスターのmOjakoのネタバレレビュー・内容・結末

ロブスター(2015年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

間違いなく好き嫌いは分かれますが、ハマればデカいとも思います。

モテない奴は動物に変えられて、主人公はロブスターになりたい男って設定がまずどうかしてる。オープニングからぶっ飛んでて車を運転する女、銃とロバ、そしてワイパー。意味深なものが多々映りますが、最後まで見るとここも味わい深い。

ブラックコメディとして設定が1番活きてるのかなと思ったのが序盤。極度に管理された施設のシステム自体の面白さはもちろん、すぐ鼻血出す奴や無表情サイコパス女などモテないなりの理由を抱えた強烈なキャラクター達が好きでした。ただ表面のシュールさに止まらずホテルの中="世界"と読み取れるところがまた良い。つまり劇中では法律として恋愛することが義務付けられ世間から圧力をかけられ四苦八苦する姿が誇張して描かれる訳ですが、これは現実の特に少子化の日本社会ではあまり笑えない。恋愛や結婚の価値観が昔とは変わってきてたり、女性が男をそれほど必要としなくなってきてる今だからこそ描く価値のあるテーマだなぁと思いました。
で、当然劇中では動物に変えられちゃうからどっかで妥協して相手を選ぶ訳ですが、これも現実と同じ。犬(兄貴)を殺されても相手に合わせ無理して一緒にいる主人公の姿は笑っちゃうけど、半分は自分たちのことを言われてるから痛々しくもある。ことここに至って恋愛やコミュニケーションに悩んだり苦しんだりする人間は何てバカバカしい存在なんだろうという感じがしてくる。

中盤以降は施設から逃げ出してレジスタンスに参加すると一見自由になったように見えるが、実は前半以上に縛りは厳しくなりまた別のテーマが浮かび上がる。恋愛に四苦八苦する人間は愚かかもしれないけど、じゃあそれを力で押さえつける社会が本当に良い社会なのかと。真に相応しいパートナーを見つけた2人が理屈じゃなく惹かれ合うのは人間の愚かな面であると同時にやっぱり愛おしい面でもあるんじゃないのかと。ちなみにここでのレジスタンスリーダーを演じるレア・セドゥは今までとまた違う冷たい感じのアンニュイな雰囲気で本当に凄い女優だなぁと改めて思いました。
ラストは解釈が分かれるだろうけど個人的にはすっごく好きでした。全編通してですが甘いだけの結論じゃなく最後まで男女のコミュニケーションの難しさを描き切ったところが素晴らしい。女は常に自分の為にどこまでやってくれるのか男を試し続け、男は常にそれにどこまで応えられるか自分の中で葛藤し続ける。関係を維持するのは本当に面倒くさいけどそこに唯一の希望も見出してるように感じました。「キャロル」に続いて視線の演出が全編効いてると思いますが、ラストはレイチェル・ワイズの目の動きだけで戦慄する名シーンだと思います。

一見わけわからんシュールなアート映画かと思われがちですが、全体にものすごく計算されてるし主人公の状況に合わせて舞台背景とテーマが自然と結末へ集約されていくように相当構成が練られてるように思います。コリン・ファレルは久々にすごく良かったし、その他にもジョン・C・ライリー、ベン・ウィショーら意外と豪華キャストのシュールな演技を堪能するだけでも結構楽しいのではないでしょうか。
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