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ロブスターのsnowwhiteのレビュー・感想・評価

ロブスター(2015年製作の映画)
3.5
『哀れなるものたち』の予習として同じヨルゴス・ランティモス監督作の本作を鑑賞。




(ネタバレあります。)
独身の人はホテルに集められ45日以内にパートナーを見つけなければ望む生き物に姿を変えられる世界の話。パートナーにするには2人に共通点がなければならない。なので軒並みパッと見て分かる特徴で共通点がある人をターゲットにすることになる。背が高いとかホクロが同じ場所にあるとかだ。

主人公(コリン・ファレル)は最近妻と別れ独身に。

ホテルに行かされ、パートナーを見つけられなかった時になりたい生き物としてロブスター🦞を選ぶ。100年以上生きて高貴で死ぬまで繁殖能力を失わないと言うのが理由とか。あ、海が好きと言うのもあった。

「ええっー!ロブスター!」と思ったが意外とこのチョイスいいのかも?森にいたら人狩りに来た人になんかされるかも知れないし、海の中にいれば誰に干渉されることもなく自由だ。因みにロブスターはこの映画の題名だ。

45日以内にパートナーを探さなければいけないのだが別れたばかりでその気にならない。しかし無理矢理にでも45日以内に見つけなければならない。周りを見るとホテルにいる人達は躍起になって目指す相手の気を引こうとしている。

ここにはもう一つルールがあり、人狩りで人を殺せば殺した人数分リミットの日数が延びる。動物を狩る様に人を殺すのは抵抗があるが最初は抵抗を感じた人達が段々当たり前に殺すようになって行くのが恐い。

戦争の暗喩なのか?それとも人間の身勝手さを描いているのか?生き残るためにはやむを得ないということを差し引いてもやはりとても惨い。

主人公は2人の男性と仲良くなる。その内の1人は運良くパートナーを見つけてホテルから出て街に住むことが許される。これで解放されるかと言えばそうではない。街にも警察のような監視者が見張りを続けており、ホテルから逃れる為の仮面夫婦だったりすると処罰(=死)される。1人で歩いていただけで職務質問を受ける。「1人か?」と声をかけられた時の恐怖といったら…。
街に住むことができたとしても気が休まることはない。

さて人狩りで人を殺せない主人公はリミットまであと2日となってしまう。仕方なく1人の女性とパートナーになる。

パートナーを探そうとせず人狩りで無表情に次々人を殺して生き延びている冷酷な女。よりにもよってこの女を選ばなくてもいいだろうと突っ込みたくなるが主人公は自分も冷酷な振りをして彼女とパートナーになる。

先ずは2人でホテルの部屋で暮らしその後外の家で暮らし上手くいくようならホテルから出て街で住むことが許される手順だがホテルで過ごした次の日主人公は恐ろしい光景を見ることになる。

主人公は犬にされてしまった兄と共にこのホテルに来たのだが、兄であるその犬はパートナーによって無惨に殺されていた。主人公が自分と同じ冷酷な人間かを確かめる為に殺したと平然と言い切る女。主人公は逃げ出した。殺そうと追ってくる女を振り切り森に逃げた主人公。

森には逃げてきた独身者の集まるコミュニティーがあった。そこにはホテル同様支配者がいておかしなルールを皆に強いていた。恋愛禁止というルール。破れば殺される。

パートナーを見つけろと言われても全くその気になれなかったのに、恋愛禁止だと言われれば好きな人が出来てしまう。おかしなものだがそんなものかも知れない。
近視であるところが共通点の彼女と愛し合うように。

(森で共通点とか要らんのと違う?と突っ込みたくなるが…。笑)

だがルールを破れば死なので2人の仲は秘密だ。身振り手振りのサインを決めて会話する2人。

だが2人の仲が支配者にバレる時が来る。支配者は2人を殺さず残虐な方法を思い付く。彼女の眼をくりぬいたのだ。2人は森を逃げ出して街に行く。途中警察に職務質問を受けるが上手く言い逃れて夫婦だと信じて貰えた。しかしいつまで騙せるか分からない。彼女が目をくりぬかれたので近視という共通点がなくなってしまったから…。主人公は自分も失明することを選ぶ。2人は愛し合って暮らしていくのだろうと思わせる終わり方だった。

この映画を見ていて深いものが隠されているような気もしたのだが、例えば戦争等の残虐性とか人間の本質を深くえぐるとか。

そういう見方が出来る一方これはもうコメディで笑い飛ばす映画な気もした。

突っ込みたくなるところがいっぱいあって、例えば森に逃げて支配者がおかしなルールを強いているのだが、普通に考えてどうして皆素直に言うことを聞いているの?と思ってしまう。だって支配者は女性1人で武器を持った人が警護している訳でもないから男性たちが取り押さえればあっという間に彼女を追い出すことも可能だからだ。どうして黙って支配されてるのか意味が分からない。

パートナーを見つけなくてはならないというのは種の存続の為に子供を作らなければならないかららしいがその割にホテルに集められてる人達の平均年齢が高い。どう考えても若い人集めた方がいいでしょう。突っ込みどころ満載。

あっ、そうそうパートナーは異性でも構わないんだった。最初に契約する時異性のパートナーにするか同性のパートナーにするか選ばされてたっけ。じゃあ何?種の保存の為でもないの?ここでも突っ込みたくなる。

森の中で恋愛するのに主人公たちはまだホテルでのルールに縛られている。共通点なんていらないでしょ?近視が共通って、どうしてそんなルールに縛られてるの?と笑ってしまった。

それがヨルゴス・ランティモス監督のコメディ要素なのかシュールな笑いを産んでいる。

シュールと言えばホテルでの勉強会とも言える講演もシュール。パートナーを見つければこうで、見つけなければこうで、というコントのような講演会。あれを真面目に聞いて講演の最後で拍手している観客たち。シュールな笑いを呼ぶシーンだ。
皆は洗脳されているのか?それとも感銘を受けた振りをしなければならないのか?やばい宗教団体とかどこかの国で起こっている事とそっくりだ。

ヨルゴス・ランティモス監督、『女王陛下のお気に入り』で初めて知ってこれで2作目だけど癖の強い監督であることは間違いない。でも嫌な癖の強さではない。

『哀れなるものたち』を早く見たいが息子が一緒に行きたいというので中々行けずにいる。私と行くと息子は50ペア割引により安くなるが、息子の仕事が忙しく土日毎に出張が入るので中々行けやしない。早く観たいものだ。『哀れなるものたち』は絶対映画館で観るべき映画だと思う。期待している。
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