青山

ロブスターの青山のレビュー・感想・評価

ロブスター(2015年製作の映画)
3.5

独身者は"ホテル"に連行され、15日以内にパートナーを見つけなければ動物にされてしまう世界。
妻と別れたデヴィッドもホテルに連れてこられてしまうが、彼はそこからドロップアウトして森の中に暮らす独身者たちのグループに入ることになる。しかし、恋愛禁止のグループの中で彼は1人の女性に恋をしてしまい......。


『哀れなるものたち』を観たので記念にヨルゴス・ランティモス祭をしています。
本作はずっと昔に観たことあるんだけどその時はあんまり面白さがよく分からなくて、でも今観たらなんだ面白いじゃん、と。昔観た映画でも大人になって観直すと良さが分かることあるよね〜という映画あるあるを実感しました。

独身者がホテルに連行されてそこでいわば強制的に婚活パーティーに参加させられるみたいな状況に置かれ、一定期間でパートナーを見つけないと動物にされる............さらにホテルの外には森があってその中には独身者のグループがいるんですね。ただこのグループの中には今度は「恋愛禁止」というアイドルみたいなルールがあって、無理やり恋愛させられるか絶対しちゃダメかしかない世知辛い世界観なわけっすね。
この設定だけでも奇抜なんだけど、その世界で生きる登場人物たちもみんな妙に淡々としていて与えられた役をこなしているかのように見えることがあって不気味だった。

全体にシリアスで淡々としたトーンで進んでいくんだけど、その中に「えっと、これ笑って良いところなんですかね?」と確認したくなるような変なユーモアが結構たっぷりと散りばめられていてより一層異様な空気感になってんのが面白い。ホテルのホールみたいなところで「パートナーがいるとこんないいことがあるよ劇」みたいなのを見せられるところとか爆苦笑してしまった。爆苦笑ってなんだって感じだけど、そうとしか言えない感じの笑いなのよね。1番笑ったのは親友への手紙のくだりです。性格悪すぎる......。
あと『哀れなるもの』を観た後で本作を観ると、本作にも変なダンスシーンがあって、これって監督のフェチだったのか......となんか納得した。

ホテルでのシュールコメディ的な婚活(?)のパートから、後半は森でのメロドラマにシフトする二部構成みたいな形になっていますが、正直前半のホテルでのあれこれの方が楽しくて後半ややダレてしまった感はあります。ただ、後半からはレア・セドゥも登場するのでそんだけで良い。あの憂いを帯びた美貌で独身者グループの冷酷なリーダーの役はカッコよすぎた。
理不尽なシステムに従うことを強いられる前半から、システムからドロップアウトしても結局別のシステムに従わざるを得ないという後半の、どっちにしろ地獄みたいな感じも嫌ですね。
全体を通して共通点のある男女がつがいになるという極度にデフォルメされた人間関係が描かれつつ、その共通点が嘘だったり勘違いだったりするのも皮肉が効いてていいし、それを踏まえてラストシーンをどう解釈するかも観客に委ねられていて、委ねられてはいるけどまぁたぶんそういうことだよな......とイヤな方に想像して凹まされてしまうあたりの性格悪さも嫌いじゃない。

という感じで、大人になって擦れたからか意外と楽しめてしまった、ブラックユーモアに満ちた性格悪い映画。ランティモスの他の観てないやつとか前観た鹿殺しとかもまた観たいっす。
青山

青山