『ロブスター』観ました、面白いなぁ。
「もしもやもめが動物に変身させられちゃう世界だったら?」
というハイコンセプトなお話で、ニューウェーブSF小説にありそうです。
「理不尽な抑圧を人々に強いる支配者に牛耳られた社会」
という世界観を持ったハイコンセプト作品は『華氏451』『わたしを離さないで』『リアル鬼ごっこ』など色々ありますが、『ロブスター』もその系譜ですね。
お話は主人公の中年男性が奥さんに振られるところから始まります。
主人公を演じるコリン・ファレル、しょぼくれた表情がこの役にピッタリですね〜〜。
彼は離婚後すぐお役人にしょっぴかれて、「今日からここに住みなさい」とホテルにぶちこまれます。
ホテルでは自分と同じく伴侶のいないやもめ男女が沢山。
みんな浮かない顔で、しみったれた暮らしを送っています。
45日以内にパートナーを見つけなければ、みんな動物に変えられるという仕組みです。
ここがホテルというより事実上の強制収容所みたいで、なんだかナチスのユダヤ人狩りを彷彿とさせますね。
やもめを動物に変身させる部屋もちゃんとあって、ガス室みたい。
捕まったやもめは時折ホテルの外に出かけて、
逃亡中のやもめ達を猟銃(麻酔銃)でふん捕まえる仕事を与えられます。
やもめを1人捕まえるにつき1日だけ、動物に変えられる刑の執行猶予が伸びる仕組み。
だからみんな必死に独身のお仲間を追っかけ回すわけです。
これも何だかゾンダーコマンドみたいでうら寂しい気分になりますね。
こう書いてると暗〜いローファンタジーに思えますが、
ブラックなユーモアのきいた演出が隅々まで行き届いていて、何ともひねくれたコメディ映画に出来上がってます。
流れる音楽も不穏なストリングスだったり侘しいシャンソンだったり。
でも脚本のおかげでほろ苦い笑いが漏れてくる。
『ブルージャスミン』観てる時もこんな気分でした。
主人公が住むやもめホテルに独身仲間がいろいろ出てきますが、
ジャガイモ顔のジョン・C・ライリーの演技はとりわけ素晴らしいです。
ぎこちないダンス、受け答え、顔芸など、ジョン・C・ライリーらしい「冴えない中年男性」演技がたくさん。
『マグノリア』『ハードエイト』『おとなのけんか』などでも同様のしょぼくれおじさん演技が光っていましたが、
『ロブスター』の彼も「この人しか考えられない!」というキャスティングで素晴らしいです。
森の中でパンツ一丁で寝そべるシーンなんか『脱出』のネッド・ビーティみたいで、わびしさが溢れ出ていて特に良かった。
あとポール・ジアマッティとか、
ジョン・グッドマンとか、
ジョン・ファヴローとか、
太った中年のおじさん俳優が好きで仕方ないんですよ。
映画のちょうど半分からは舞台も登場人物もガラリと変わって、違う映画になっていきます。
主人公が「やってられん!」とホテルから逃げ出して、近所の森に駆け込むんですね。
すると森の中には、役人の追跡を逃れて共同生活を送るやもめの集団がいました。
主人公も「かくまってやる」とのことで、加入させてもらえて一安心です。
しかしその集団には
「恋愛厳禁」
「イチャイチャしたら血の制裁を下す」
という鉄の掟があるんです。
ここはここで息苦しい世界ですね。
集団を取り仕切る冷血の女リーダーがレア・セドゥーで、彼女もいい演技をしていますね〜〜。
クールで強い女リーダーと言えば
『風の谷のナウシカ』のクシャナ、
『怒りのデスロード』のフュリオサ、
メリル・ストリープが演じたサッチャー首相
などが思いつきますが、『ロブスター』のレア・セドゥーもツーンとすましてて厳しくてお似合いの役です。
主人公はこの集団で知り合ったレイチェル・ワイズとデキちゃうんですが、
従来とは一転。付き合ってることを必死で隠さなきゃなりません。
バレたら厳罰。
2人は無事に関係を隠し通せるのか。
このまま森の中で悶々と不自由に暮らし続けるのか。
最後の最後に主人公が下した決断と行動は、観てて気絶しそうになりました。
それはもう、『127時間』を観た時と同じに。
必要最低限の編集とムダのないカメラの動き、
人物の細かい視線や所作、
オフビートな笑い、
などなど見るほどに味わいの増す映画です。
おススメ!