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人生タクシーのTabrizmoviesのレビュー・感想・評価

人生タクシー(2015年製作の映画)
3.4
試写会にて。

舞台をタクシー車中に設定し、そこでの人間模様を活写する、ドキュメントタッチの手法というのは、ありそうでなかった面白いものだし、そこから社会問題をあぶり出すには、とても有効なやり方だと感じた。

しかし、パナヒ監督は自分の主張を前面に出すようなことはせず、基本的に聞き役に徹し、更に舞台をタクシー内だけに設定したため、どうしても各エピソードは説明不足な感がある。解釈は出来るだけ観客に委ねたいという監督の狙いなのかもしれないが、アリ池に金魚を返しに行かないと命に関わるというおばさんのくだりなど、どうしてそうなるのか疑問符が残った。

また、宣伝文句に書かれているような、現代イランの社会問題、例えば死刑制度の議論などもあるにはあったが、それらは乗合タクシー車中のごくありきたりな世間話の域を出ず、正直、物足りなさを感じた。
映画を通し、ただ問題提起が出来ればよかったのかもしれないが、展開される議論の深さ、観客に与えるインパクトでは、本物のドキュメンタリー映画には及ばないと思った。


後半に登場する姪っ子のハナちゃは、溌剌としてとても可愛く、印象的。彼女のようなイランの将来を担う若い世代には、パナヒ監督の意志を継ぎ、より自由な表現が出来る社会を実現してほしい。

劇中、トルコのヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督の「昔々、アナトリアで」の名前が出てきたが、同世代の彼らを中心に、イスラムと国民国家の相克という共通のジレンマを抱える隣国のイラン、トルコの芸術映画は、似たような問題意識を持ちつつ影響を与えあってるのかもしれないと感じた。
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