一人旅

エベレスト3Dの一人旅のレビュー・感想・評価

エベレスト3D(2015年製作の映画)
4.0
バルタザール・コルマウクル監督作。

1996年にエベレストで実際に発生した遭難事故を再現した山岳サバイバル。

圧倒的大自然を前に人間は無力。まるで自然が、そこに足を踏み入れた人間を意思を持って突っ撥ねているかのようだ。凍てつく寒さ、ブリザード、クレバス、低酸素、そびえ立つ岩山...数々の障壁が登山者を待ち受ける。だが、自然が仕掛ける罠以上に、人間の生死を左右するのは人間自身の冷静な判断力と決断力の有無。下山開始までのタイムリミットが迫る中、“山頂が目の前に見える”という千載一遇、一生に一度のチャンスをあっさり捨て去る覚悟はあるか?エベレスト登頂を成し遂げたいという欲望が自分自身の心の中で何よりも優先されると、登山者の死亡率はグッとアップする。重要なのは、登頂ではなく諦める勇気。“あと少しくらいなら大丈夫だろう”という小さな油断が、容赦なく恐怖と死を呼び寄せる。そうした意味では、登山の本質は対自然以上に対人間(自分)。まず自分自身に打ち勝てなければ、自然を制することなどできない。

最新の映像技術によるエベレスト映像は圧巻のリアリティと迫力を生む。登山者に向かって下方からブリザードが急襲してくる瞬間は本当の恐怖。一瞬にして全ての視界が奪われ、その場から動くことすらできなくなる。登山者を徹底的に追い詰める一方で、天候が回復し太陽の光に照らされたエベレストは圧倒的自然美。その対比が、あくまで自然が常にあるがままの状態であり、人間にとっての優しさと厳しさの両面で登山者を迎え入れていることを示す。

そして、壮絶な山岳サバイバルを描くだけでなく、登る者と遠い母国で帰りを待つ家族のドラマも映し出す。ヒマラヤへ旅立った夫に襲い掛かる危機的状況が夫婦と家族の愛情を再確認させ、一方では自然の猛威が男女の愛と未来を完璧に破壊する。自然と真正面から対峙することで、人間は何かを得、何かを失う。当然のことながら、人間対自然の戦いを通じて本質的に変化するのは自然ではなく人間の方なのだ。
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