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オーバー・フェンスのmanamiのレビュー・感想・評価

オーバー・フェンス(2016年製作の映画)
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同名小説が原作で、作者は今作の舞台である函館出身の佐藤泰志。彼の作品は他にも『そこのみにて光輝く』『きみの鳥はうたえる』など4作も映画化されている。
と書くといかにも有名かつ人気のある小説家のようだが、若くして才能を評価されながらも万人に受け入れられる作風ではなかったようで、とある賞を受賞したのに本来なら受賞作が掲載されるべき新聞への掲載が見送られたという経験もあるらしい。
その後も、5回の芥川賞候補ノミネートを経ても受賞には至らず、小説で生計を立てるのは難しく、彼自身も函館の職業訓練校建築科に在学していたこともあるそうで。彼の人生を調べれば調べるほど、あまりの報われなさに、その作品の登場人物と重ね合わせずにはいられない。
さてそろそろ、この映画のレビューをば。
蒼井優が演じる「ぶっ壊れてる女」の名前は聡。さとし、と読む。それを聞き返されて「親がバカなだけ」と応じる一言は最初「なんかカッコイイ」と感じる。でもその後のぶっ壊れ具合も見ていくと、「さとし」と名付ける何某かの理由が、家庭環境にあったのではとも考えてしまう。もしかしたら原作には、そんな背景も描かれているのだろうか。
鳥の求愛を裸足で、全力で舞う聡。クラシックバレエの経験があるという蒼井優のしなやかかつ力強い動きが美しい。舞台化しても見応えありそうだな。
そしてオダギリジョー演じる「ぶっ壊してしまう男」は、誰よりも自分を許せないでいる。普段は常識人としての冷静な自己を保っているけれど、触れられたくない領域に少しでも踏み込まれるととたんに抑えがきかなくなる様が、とても見事に表現されている。
そんな白岩と同じ職業訓練校で学ぶ面々は、なかなか個性的。
代島は絶対に友達になれないタイプだけど、経営者には確かに向いてそう、夜の仕事なら尚更。わけのわからんシャツにセカンドバッグっていう、いかにもなファッションの松田翔太がダサくてかっこよくて、面白い。
原さんはかっこいい〜。自身の過去について話すシーンも、ひけらかすでも卑下するでもなく、「なんだかんだ言いつつ現在が充実してる人」の語り口調で、北村有起哉にとても合っているし、とにかくかっこいいのよ。
オーバーフェンスってホームランのことなんだね。作中に出てこなかったから鑑賞後に調べてみて、初めて意味を知った。知らないまま観ることができて、本当に良かった。

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