きょ

この世界の片隅にのきょのレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
4.8
泣きました(迫真)

世の中は様々な不条理で溢れている。
なんであの時、なんであの人が、なんで私だけ…
普通では信じられないようなことが、本当に起こってしまう。
それでも、生きていれば、命さえあれば、希望を持つ事ができると心から思える。

かわいらしいタッチの絵柄で、全体的に柔らかい雰囲気だけど、内容はかなりリアルで一切嘘が無い。
否応無く振りかざされる理不尽な暴力の凄みも、その人たちの間でしかわからないようななけなしの幸せな瞬間の温かさも、すべてそこに確かに存在する本物だった。
特に、空襲が来たとき「今ここに絵の具があれば」と思ってしまうシーンは印象的だった。
凄まじく悲惨で残酷な場面でさえ、人は時々そんなのんきな事を考えてしまうものかもしれない。
たとえそれが人を殺す脅威だったとしても、実際に美しいと感じる景色はある。その感覚を善悪などの基準で測ることはできない。
アニメでしかできないような描写もあって面白かった。こんなにも生々しく人間の生きている姿、その熱量が感じられるとは…

悲しくなるけど、なんとか心に救いがあった。現実的な厳しさもあるが、やっぱり優しい世界観がこの映画の空気を包み込んでいた。
ここまでリアルに人間の生を追体験すると、作品のタイトルにもなっている言葉を含んだ終盤のクサめのセリフももはや違和感が無いし、胸に沁み渡ってくる。
ただ生きていることが愛おしい。そう思えた。
きょ

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