転生Moljiana

この世界の片隅にの転生Moljianaのレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
4.4
私の地元、というか私の住む県では何故か12/23と1ヶ月遅れの上映だった為、今更初日初回で観て参りました。マジで都会の大学に行けば良かった。

舞台は昭和19年。広島に住む主人公・浦野すずは、呉に住む北條家に嫁ぐ事になり、夫である周作と共に家族団欒仲睦まじく暮らすが、戦争という事実が段々と彼女に迫り続ける……。

原作未読、1回限りの視聴だった為、細かい所は分かりませんでしたが、本当に素晴らしい作品でした。企画から上映まで6年という歳月を費やしたのも頷ける細かい街並みや風景模様、戦時中の様子や文化様相、その中で生き続ける人々の様子等、アニメーションだからこそ出来る手法を持って描いた本作は並の戦争映画とは一線を画する魅力に溢れていました。後、5回は観たい!!

主人公・浦野(北條)すずは至って普通の女の子。絵を描く事が何より好きでのんびりした性格の普通の女の子。今作ではそんな彼女が、夫の姉であるサンと折り合いが悪くなったり、円形脱毛症に悩まされたり、子供が出来ない事に悩んだり、戦争によって更に不幸な目に合い続けるものの懸命に日常を過ごし、この(幸福と悲哀が詰まった)世界の片隅に生きる事を決心する迄を描いた訳ですが、実際に観てみてビックリ。兎に角テンポが早くて笑える!!
あのテンポの速さはバリバリの広島弁も合わさり「少し初見には厳しいかな……?」とも思いましたが、基本はのんびり屋のすずの日常話でストーリーにも緩急がキッチリ付いていた為、まあ問題無し。当初は不安視されていたのん(能年玲奈)さんの起用も大成功という他ない位、すずちゃんのイメージに合う完璧な演技でした。
因みに私自身は日常物は結構苦手(起承転結が無い作品や物語に起伏の無い作品自体が苦手な為)でしたが、今作は申し分無し。時折垣間見える日常の中のユーモアや笑いも自然と笑みが零れる位面白かったですし、満席の劇場内でも終始笑い声が絶えませんでした。砂糖水の下りは特にお気に入り。

後半から本格的に始まる空襲シーンもリアルで怖かったですね。私自身は「WWII」と「広島」と聞くと原子爆弾を真っ先に連想しますが、まさか呉で彼処まで凄まじく惨たらしい空襲が行われていたとは露知らず、本当に衝撃的でした。これも細かいリサーチが故の迫力なのでしょうが、個人的には戦闘機の動く音や爆弾の爆発音が兎に角禍々しく聴こえました。これは『野火』のレビューでも似た様な事を書いた気がしますが、「全ての戦争に『この世界の片隅に』の世界がある」と想像するだけで心が折れそうになります……。アニメーションを通して伝えられる戦争の恐ろしさ、今作を観れば「絶対あの場には立ちたくない」「戦争は嫌だ」と断言出来るでしょう……。後、空襲を絵画として見せる演出は『ヤコペッティの大残酷』ぽいね。

不満点(というか違和感)としては、一番の盛り上がり所になりそうな昭和20年8月6日の原爆投下について劇中では其処まで重要視されていなかった……寧ろその前の空襲や8月15日の玉音放送について焦点を当てられていた事ですかね?
まあ空襲と玉音放送の下りは本作屈指の名場面でもあるので、文句を云う気は更々有りませんが、すずの実家は広島な筈なのにあの扱いで良いのかな……?

知識不足が祟ってきたのでレビューはこの辺で。まだ観ていない人は殆ど居ないとは思いますが、今作こそ劇場で、大勢の人と共に観るべき映画だと思いました。2016年という邦画大豊作の年を締め括る最後の大傑作にして最早戦争映画の代表作に上り詰めた今作、満席の劇場で観れて本当に良かったです。間違いなく記念すべき450本目に相応しい作品でした。

雑記:今作でも重要な建物として描かれる広島産業症例館(原爆ドーム)。世界遺産にも認定され最早説明不要の建物ですが、高校時代に修学旅行で行ったんですよねー。流石に原爆ドームには入れませんでしたが、慰霊碑で学年一同黙祷を捧げたり、平和記念館を見学したりしました。しかし、午前に広島を午後にUSJというスケジュールが祟った所為か、私含めて殆どの生徒が(USJが楽しみ過ぎて)不真面目という有様に……。
そういう意味でも『野火』と今作は今迄の戦争認識を一新させられる強い衝撃を与えてくれた作品でした。正しく全ての世代に見せるべき映画。私も修学旅行の前に観たかった……。

<2016年ベスト6位>
転生Moljiana

転生Moljiana