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この世界の片隅にのcoolmeのネタバレレビュー・内容・結末

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

◾️戦時中の日常
戦争中のとにかく貧しい暮らしのことは学校で学ぶけれど、そうした中にある祝い事や工夫、ちょっとした贅沢などが描かれていて引き込まれました。
そのひとつひとつが、リアルや真実さにつながっていたのだと思います。
戦時中とはいえ、その時代を生きていた人にとっては、それは日常だった訳だから、毎日を鬱々と過ごすのではなくて、笑いあったり、工夫しあったりして前向きに生きていたのだと伺い知りました。
(後々調べてみると、当時を過ごした人からもヒアリングして、しっかりと描いていたのだそうです。)

◾️製作陣のキャラクターへの愛を感じた
辛く厳しい現実の中でも、それでも暖かい気持ちになれたのは、急な結婚とはいえすずちゃんと周作さんが仲睦まじいところでした。
やはり人々が愛し合って支え合うことで日々を過ごせるのだ...感じていました。
しかし、原作との違いを調べてみるとごっそり削られたエピソードがあることを知りました。よりによって、周作さんの過去の恋愛事情に関するエピソードだったとは...と思ったのですが、監督によるとカットした理由が「2時間ですずさんを幸せにできないから」という思いやりからだそうでした...(考察だったかもしれないので出典を探します)。
そうした配慮にもあるように、この作品はとても愛されて愛されて作り上げられていったのだな、と思いました。

◾️無料配信をきっかけに視聴
私は、正直戦争ものの映画は悲しい気持ちになるので避けてきました。
この作品に関しては、グロテスクなところがないということと、とても良いという評判は知っていたので、ソフトバンクの特典で無料配信というお知らせを知り、この機会に見てみようと思いました。
想像よりも痛ましいシーンはありましたが、それでも、上記にあげるような丁寧な作りで多くの人の心に残る作品になった理由がよくわかりました。

◾️広島なのに原爆の描写が浅いという批判について
主人公のすずちゃんは、ライフイベントや自分の意思で、偶然に爆心地から離れる選択を絶妙にしています。インターネットも何もない時代で、被害が及ばない地域にいたのだから、原爆の実害が解らないのは当たり前だと思います。家族が居るのなら、なおさら、現地に行こうとするのも自然なことだと思います。広島を扱って居るのに、そんなにサラッと流すのは...という感想を結構見ましたが私はそのように解釈しました。
(実際、私自身の話になりますが3.11の渦中にいた時、市内全域が停電してしまって、テレビがつきませんでした。ネットも混戦状態。ワンセグを起動する...という機転が利くまでは、何がおきたかなんて解らなかったからです。)

◾️「戦争もの」という枠を超えて
すずちゃんは、絵を描くことで生きがいを見出しているシーンが何度もあり、戦争の残酷なシーンのほとんどは、まるでキャンバスをめちゃくちゃにされてしまうような描写だったりしていました。
終盤では、そのように当たり前に使っていた右手を失うという展開にはっとしました。
すずちゃんは、戦争体験者というだけでなく、ふとしたきっかけで障がいをもつひとにもなっていく...。戦争で亡くなった方だけでなく、ハンデと仲間を失った哀しみを背負いつつ生き残って行く人達も居たんだと気づかされました。その心情の描写は「ただ泣かせるために持ってきている」のではなくて、「きっとこれがリアルなんだ」と思わせるストーリーで心に残りました。
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