きういさん

残穢 住んではいけない部屋のきういさんのレビュー・感想・評価

3.6
原作は読みながらも紙面から手に穢れが染み出してくるような恐怖感、そして最後にはこの残穢という本を手元に残すことすら、恐ろしいと感じさせるほどの逸品、傑作だった。

反して、映画で描かれる恐怖は全くの別軸で描かれており、特に原作では重要な要素となる死穢や触穢については触れていないこともあり、小説版のように思わず自分も穢れに触れてしまったような、読了後の「読んでしまった……」という、ねっとりと纏わりつくいやーな後味や恐怖感はかなりスッキリ目になっている。

しかし、残穢を実写化するにあたって、ホラー映画としてのエンタメ性に舵を切るという部分は、個人的に小説のあの恐怖を実写化するのは不可能だと思うので、かえって良かったのではと思う。

原作ファンからは改悪との声もあるものの、映像化することによってフィクション感がより強くなってしまうのは避けられないと思うし、むしろ無理に抗わずにその枠内に収めつつ、小説をただ実写化するのではなく、映画ならではの実写化に振り切っていたのが好印象。

特に様々な恐怖演出がイメージしていたそのものであり、映像ならではのリアリティを感じられた。
小説でゾクっとした部分を映像で見ることができ、残穢という作品を別軸で楽しむことができたのも良い。

フィクションとリアリティの狭間にある、呪いのビデオシリーズような、どこかであったかもしれない怖いお話に片付いていて「映像作品における怪談」として小説の内容を、うまくまとめていると思う。

そのため、原作版残穢のような土地の概念は薄く、逆に呪い、怨念の概念がより濃くなっている。
それは特にラストに凝縮されていて、これはこれで逃れられない感じがあって最高だった。

これは蛇足であるが、自分も幼少期に寝室と襖を挟んだ和室から、ずっとうろうろする衣擦れの音を聞いて布団で震えていたことがある。
勇気を出してリビングに行くと、家族全員そこにいて、誰か和室にいたか聞くと誰もいないってことが頻繁にあった。

今作の衣ずれの音が、まさにその時聞いていた音そのもので、トラウマを鮮明に思い出してそれが一番怖かった。

幸いこれまで何事もないものの、実家の歴史を辿ったら何かあるのかもしれない……。
きういさん

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