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ハッピーアワーのあのレビュー・感想・評価

ハッピーアワー(2015年製作の映画)
5.0
「指先から重さが消える。そう、羽衣のように...」声に出して読みたいセリフです。大いにツボりました。あと関係ないですが、桜子が電車に飛び乗るシーンで、地下鉄でフレンチマフィアに撒かれるジーン・ハックマンを思い出して地味にツボでした。

どことなく濱口監督が好きだと言う「Husbands」の女友達版といった感じがしました。というわけで、「Husbands 」同様冒頭からほぼアタリ確定映画でした。いつの間にか引きの画になっていたケーブルカーの中に本作の主人公の4人がヌルッと登場したかと思えば頂上でランチ。しかしそこで雨が降ってしまうことで、自然と景色の話題から自分たちの話に深入りしていくこととなる。導入がうますぎです。あそこの雨は衝撃でした。純の危うい演出も秀逸で、冒頭何故か紹介されない純の背景事情や、車で遠ざかっていく景色の中で手を振る純、旋回するフェリーの甲板をスーツケースを引きながらスーッと先端まで歩いていく純は、先行きの危うさを表すには十分過ぎるほど怖かったです。

また、重心で人々の関係性が表現されていたので、本当にこちらの重心も探られているような気がしてしまいました。肝心なところで平中線合わせのショットになるのも相まって、完全に監督のペースに乗せられてしまったので、朗読会のシーンでは観客と一緒に拍手しそうになりました。それに、有馬温泉のところで「お前らどうせ滝とか見てんだろ?」と言わんばかりに滝を視聴者の目線に合わせてくるのはなんかいやらしかったです。はい、見てましたよ、すみません。

事実以外のことが言葉の中に入った瞬間すぐに見抜かれ、究極の選択を迫られる状況が5時間強続くということで、かなり体力がいりました。空気の読めない、所謂自閉傾向の強い人間がなぜ今日まで生き残っているのかがよく分かる5時間強でした。嘘偽りなく真に語り合ったところで側から見て幸せな結末は来ないかもしれないですが、そうすることによって人々の関係性に変化をもたらし、現に今回4人とその周辺の人たちの物語を5時間紡いだのがその証拠だと思いました。

鵜飼とその妹、公平、梢には、個人的に恐怖心を感じましたし、中にはイライラする人もいるかもしれません(特に明タイプは)。それは、彼らのような人々に全てを見透かされそうに感じるからではないでしょうか。監督もこんな飄々と観客をぶん殴る映画を撮っている時点でそういう人な気がします。いい映画だな、と思った作品はいくらでもありますが、本当に「あ、殺される」と思った映画は初めてです。また見返したいですが、もう二度と見たくありません。
あ