パパイヤ男爵

疑惑のチャンピオンのパパイヤ男爵のレビュー・感想・評価

疑惑のチャンピオン(2015年製作の映画)
2.8
いちロードレースファンとしてランスのドーピングのニュースをリアルタイムで見てきた身としては、長い話をシンプルにまとめて分かりやすい映画になっていると思う。ただ、キレイにまとまり過ぎて映画的な盛り上がりに欠ける印象も。記者とランスの戦いはもう少し深く描いて欲しかった。実際には、ランス対USADAとの長く、厳しい攻防があったのだから。

なおランスは実際よりも少し優しく、穏やかに描かれている印象。本人はきっと、もっと攻撃的な性格というイメージ。ガンとの闘いという良いイメージを巧みに使いながら、裏ではあの手この手で元同僚や関係者を脅迫し、口封じをする男。UCIを買収し、ロードレース業界そのものを完全に牛耳る資本力とコネクションは映画でも垣間見られる。(ランスの性格についてはタイラー・ハミルトンの著作「シークレット・レース」に詳しく描かれている。映画で興味を持った方におすすめ)

なお映画では描かれないが、忘れてはいけないのは当時のレース上位者はほぼ全員がドーピングしていたという事実。ランスと競ったライバル達は、先んじてオペラシオン・プエルトという大規模なドーピング捜査でまとめて処分を受けている。共に表彰台に上ったチームCSCのバッソ、T-mobile所属のウルリッヒを始め、相当数の選手が数年間の出場停止や引退に追い込まれた。これでロードレース界もマトモになった…と思われていた矢先に発覚したのがフロイド・ランディスのドーピング。彼の告発は当初、あまり世間に相手にされなかったように記憶している。ランスの無実を信じる人達はロードレースファンにも大勢いた。ランスの神話はそれほど大きく、揺るぎなく世間に浸透していた。ドーピングをしていたのはランスだけではなかったが、それを隠蔽し続ける力を持っていたのはランスだけだったとも言える。

そして今はどうか。ドーピングの取り締まりは非常に厳しくなり、ここ数年は有力選手のドーピング発覚というニュースを聞かずに済んでいる。ロードレース界はかなりクリーンになったと言われている。確かに以前よりもレースで有力選手達の接戦が増えた。しかし一方で、ドーピングの技術自体もより巧妙になっていることは間違いない。最近でもテニスのシャラポワがドーピングを告白したが、プロ選手を相手にドーピングの手引きをするドクターは健在なのだろう。

ドーピングはコンピュータウイルスと同じで、検知するにはその手法を知らないと難しい。私もロードレースファンとして、ある選手の圧倒的なパフォーマンスを見せつけられた時、心のどこかでドーピングなのでは…という疑念を振りはらいきれない呪縛に今も取り憑かれている。
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