工藤蘭丸

私、君、彼、彼女の工藤蘭丸のネタバレレビュー・内容・結末

私、君、彼、彼女(1974年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

シャンタル・アケルマン特集で観てきました。この表示タイトルとは違って、『私、あなた、彼、彼女』という邦題でしたね。

シャンタル・アケルマンは、ベルギー出身の女性監督で、2015年に65歳で亡くなっているようだけど、私は昨年まで名前すら知りませんでした。おそらく世界的にもそれほど有名ではなかったと思うけど、1975年公開の『 ジャンヌ・ディエルマン、ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』が、昨年突如として、世界で最も伝統のあるサイト&サウンド誌のオールタイムベストワンに選ばれて、物議を醸すことになったわけです。ゴッホとかモディリアーニとか宮沢賢治とか、亡くなった後で有名になった芸術家も多いけど、映画作家としては珍しいところだと思う。

その是非はともかくとして、とりあえずどんなものかと思って、まずは初長編作品の本作を観てきました。1974年の作品で、主演も務める彼女は当時23~4歳ですかね。

最初の30分ぐらいは、部屋に引き込もっている彼女の一人芝居が延々と続く異色作で、セリフは全くなくナレーションの説明が入るだけ。と言っても詳しい説明があるわけでもなくて、グダグダしながら手紙を書いたりして誰かを待っている風なのは、別れた恋人に対する未練か?

その間1ヶ月ほど、砂糖をスプーンですくって食べて飢えをしのいでいるだけの生活を送っていて、私も失恋してしばらく死んだようになっていた若い頃のことを思い出してしまいました。考えてみれば私も当時24歳だったけど、仕事もやってなかったし、何もする気が起きなくて、寝て暮らしていたものだったなあ・・・。

砂糖が尽きるとようやく外に出て、ヒッチハイクでトラックを捕まえて同乗。その間も相変わらずセリフはなく、運転しながら彼女に手コキをさせるシーンで、ようやく男がしゃべり出すんだけど、女はずっと無言でした。

その後、その男とは別れて女の家を訪ねるんだけど、そこでやっと主人公が初めてしゃべるシーンが出て来る。彼女が初めに思い悩んでいた恋人というのは、もしかしたらその女だったのか?訪問先の女も、初めは少し迷惑そうだったけど、最後は10分近く続くような濃厚なベッドシーンで終わる作品でしたね。

というわけで、今流行りのLGBT映画を半世紀も前に先取りしていたのが、再評価されている原因の一つなのかも知れませんね。LGBT映画は、男同士の絡みというのは気持ち悪くて見れないんだけど、女同士のセックスにはむしろ興味をひかれるもので、本作も結構面白く観ることが出来ました。

それから、男と女が入ったバーで流れていた音楽は、私も昔よく口ずさんでいた覚えもある好きな曲だったけど、タイトルが思い出せなかったなあ。

いずれにしても、この監督の作品はわりあい好きになれそうなので、この特集でもう何本か観てみようかと思っています。