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故郷の便り/家からの手紙ののんchanのレビュー・感想・評価

故郷の便り/家からの手紙(1977年製作の映画)
3.9
シャンタル・アケルマンは1971年、21歳でニューヨークに渡り、実験映画の運動を主導したジョナス・メカスらについて内省的な表現方法を学んだ。

このドキュメンタリーはニューヨークの荒涼とした街並みに固定カメラを置き、延々と道行く人々や車の流れ、また地下鉄のホームや電車の中での人々の様子を映し出している。
計算した構図の中には都会の疎外感や無機質な空気感を感じ取れる。

映し出すものに特別な面白さがあるわけではない。
ただ、このドキュメンタリーが今の時代になり特別なものとなって後世に伝わっているのは、映像手法もあるだろうが、劇伴代わりのようにして、故郷ベルギーの母親からの愛溢れる手紙の朗読がアケルマンの声で重なっている。淡々と流れる画面を観ながら、何とも言えない母親の温かみが滲み出ているのが素晴らしい。

筆マメで週に3度は書いている?母親らしく細々と、
寂しい思いをしていない?
お金はあるの?
仕事は何をしているの?
20ドル同封するわね。届いたら直ぐに返事を書いてね。
いつ帰国するの?
でもワガママな母にはなりません。あなたが楽しめているのが一番だから。

心配している言葉と、家族と親戚の近況を詳しく書いてある。
観ている者は親族の健康状態まで把握できてしまう。

最後にいつも、あなたを愛する母より

暗中模索のような孤独感を抱えている時でしょうから、母親からの手紙は宝物だったことでしょう。
この制作は1976年なので、ずっと取っておいたわけですからね。
尊敬する母と自慢の娘の関係性がこの作品の要でした。
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