気持ちが良いってのが一番
いい映画を見終えた後の余韻って
良い酒に酔ったみたいに、
なんとも言えない気持ちになります。
そして、特にストーリーが良かったとか結末が良かったとかそういうんじゃなくって、
何だか分からないけどよかったという一筋縄じゃいかない感じは、
良い意味でたちが悪い。
このジャック・タチ監督のコメディー映画。
"タチ"だけに、
見終えた後しばらくニヤニヤしちゃうくらいにたちが悪かった。
一風変わったユロ伯父さんの日常を綴ったこの作品。
う~んと目一杯、
そこにはあらゆるセンスがギッシリと詰まっていました。
まず真っ先に堪能できるのが、
フランスの洒落た空気感。
石畳の町並みを数匹の犬が駆け回る冒頭シーン。
軽妙洒脱なメインテーマがその画と抜群な相性で、
このシーンだけでもいい映画を見たなという気になれるから凄い。
こんな洒落たセンスが、
じわりじわり、
笑いにも発揮されていきます。
笑いって奥が深いもので、
やはりまずは見ている側と演者との間で共有すべき前提があるんじゃないかと思えます。
時にそれが常識だったり、
時事問題だったり、
日常の出来事だったり。
今回の笑いに必要な前提は、
何の疑いもなく決められたルールを守って生きる人々の様子。
それらを少し斜めの視点で眺めてどこか滑稽に見せることで、
くすりと笑いを誘ってくる。
庭の飛び石を几帳面に踏んで歩いたり、
決められた駐車スペースにきっちりと車を停めたり。
普段何気なくやっている僕たちの日常の行為が、
ジャック・タチ流の心地のよい風刺として表現されていきます。
そのセンスが絶妙すぎて絶妙すぎて、
それでいて、やり過ぎない程に均衡が保たれている所がまたまた絶妙なんです。
でもそんな絶妙な均衡をユロ伯父さんがおもいっきしぶち壊す。
観葉植物の枝をちょんぎったり、
ペンキで足跡をつけちゃったり、
噴水の中に足を突っ込んだり。
彼がそんな暴挙を素でやってしまっている所にこそ最大の面白さがある。
ごく普通の人々の日常と、そこから逸脱してしまう人。
それぞれに潜在する笑いをタチ監督が垢抜けた感性でもって掘り起こし、
そして洗練された画と音楽で最小限に彩る。
その満足感足るや筆舌に尽くしがたく、
上等な余韻だけが後に残る。
な~んて、
高いワインを飲んだあとのような文句がするりと出てきてしまうくらい、
良い気持ちにさせてもらえる映画です。
こんな映画でニヤニヤしちゃうなんて、
僕もちょっとは大人になったのかな。