Cerro

ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐのCerroのレビュー・感想・評価

5.0
なんて愛すべき映画なんでしょうか!精神的飢餓感から酒に耽溺する放埒な父親と所有欲の強い凡庸な母親のもとで育ったトマス・ウルフは、著作「天使よ故郷を見よ」の主人公ユージン・ガントそのもので、彼の最後は、小説のなかの一節そのものです。物語りながら、彼は物語られるものの中に生きたようです。その言葉は体を震わすほど美しく、おもわず深いため息を漏らしてしまいました。ウルフはこう言います。男はみな父親を探し求めている。そんな彼の永遠の文学的主題でもある渇望を、マックス・パーキンズが満たしてくれます。そして、天使は故郷を見つめはじめます。
……石一つ、葉一つ、目にもとまらぬ扉一枚。一石、一葉、一枚の扉について。また忘れられたすべての顔について。
素裸で連れもなく我々は流離した。暗い胎内で我々は母の顔を知らなかった。母の肉の牢屋から今我々はこの大地の、言い伝えるすべなき牢屋へ出て来た。我々のうちの誰が弟を知っていたろう。誰が父の心を覗いて見たろう。みなとこしえに囚虜のままだ。みなとこしえに連れもない他人だ。
おお、灼熱の迷宮のなかに、忘れられた損失の荒地よ、きらら星いただくこのおぞましい、光らぬ、失せた燃え殻よ!無言のまま、思い出そうと、われわれは探し求める、あの大いなる忘れられた言葉を。天に踏み入るあの失われた小径の端くれを。石一つを。葉一つを。目にもとまらぬ扉一枚を。どこだろう?何時だろう?
おお、あとかたもない。されば霊よ、風の歎きとともに、戻り来よ、ふたたび。
Cerro

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