MasaichiYaguchi

クリーピー 偽りの隣人のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

クリーピー 偽りの隣人(2016年製作の映画)
3.8
上映終了後、映画の持つピーンと張り詰めた緊張感でグッタリとしてしまった。
タイトルのクリーピー【creepy】(身の毛がよだつような、気味が悪い)の看板に偽りはなく、最後までぞわぞわっとするような展開が続く。
日本ミステリー文学大賞新人賞受賞の原作とは違ったオリジナルストーリーが展開する映画は、その不条理さや非情さを予兆させるような衝撃的な出来事で幕を開ける。
本作の主人公・高倉は元刑事の犯罪心理学者。
彼は元同僚刑事の野上の依頼で、6年前の発生した一家失踪事件の謎を追う。
彼は、事件の鍵を握る失踪しないで取り残された長女・早紀からの聞取り調査から少しづつ事件の核心に迫っていく。
それと並行して、主人公夫妻が最近引越した自宅周辺で不穏な空気が濃くなっていく。
高倉家の周りは突っ慳貪で感じの悪い人々ばかりだが、その中で掴み所のない怪しい隣人・西野が、高倉夫妻の好奇心に便乗するようにずかずかと私生活に踏み込んでくる。
危ないことや所は避けた方が良いという「君子危うきに近寄らず」という言葉があるのに、人は好奇心に負けて怖いもの、不可解なものを覗き込んだり、首を突っ込んだりする。
たとえそれが学術的、知的好奇心に発したものであっても、時にそこには足が抜けない底なし沼があるかもしれない。
徐々に見えてきた6年前の一家失踪事件の顛末が、主人公夫妻を巻き込んで起こっていることとリンクして二重露光のようになっていく。
何故6年前の失踪事件で早紀だけが残ったのか、事件の当事者である彼女の記憶が曖昧で、肝心の重要参考人と思われる人物について詳細を述べることが出来ないのか。
そして隣の西野家のギクシャクと違和感を覚える親子関係と不穏なムード漂う家には何があるのか。
これらの謎が終盤で解き明かされた時、身の毛がよだつような恐怖が立ち現れてくる。
どのような凄絶な事件でもはっきりとした動機や背景があれば人は腑に落ちるが、動機が無くて不条理に起きる事件は、理由が分からないこそ怖い。
「隣は何をする人ぞ」の都会生活で、不条理に自分の生活を侵食され、遂には破壊される闇の怖さを、本作はぞわぞわっとした後味の悪さと共に描き切ってみせる。