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永い言い訳のkoheiのレビュー・感想・評価

永い言い訳(2016年製作の映画)
4.6
《失わないと気付かない人間の性(さが)》

今年の邦画は凄いと口々に言われていて僕もそう思うけど、そんなの序の口だと言わんばかりに今月の上映作品にはかなり期待している。具体的には『淵に立つ』『永い言い訳』『何者』『湯を沸かすほどの熱い愛』の4本。予告編を見るだけで「これ絶対好きなやつだ」と思う作品が次々に公開されて幸せすぎる。。。


津村啓というペンネームの衣笠幸夫(本木雅弘)は、テレビのバラエティなどでも活躍する人気小説家。ある日、妻・夏子(深津絵里)をバス事故で突然亡くしてしまう。世間に対しては悲劇の夫を装っていたが、事故の瞬間は不倫相手と共に過ごし、実際は涙もでなかった。
そんなある日、妻と共に亡くなった妻の親友の夫である大宮陽一(竹原ピストル)とその子供たちに出会い、ひょんなことから兄妹の面倒を見ることになる。
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西川美和の作品は『ゆれる』のみ鑑賞済み。はっきり言ってあれは嫌いだった。是枝監督の弟子だと言うのにそれに似合わない(?)驚きのラストで困惑したからかもしれない。しかし今作はそれに比べれば真っ当な人間ドラマであり家族ドラマでもあり、心底「見てよかった」と思えるあたたかい映画だった。まさに是枝作品を見た後に近い感情。

今作『永い言い訳』はある男が現実から逃げて、逃げまくって、でも最後にはしっかり向き合い成長する話である。監督が、男は言い訳をする生き物なのだと見透かしているようで怖いが、監督本人(女性)の投影でもある主人公が起こす行動故に、これは人間の本質なのであろう。嫌のものからは目を逸らし、失ってからでないと大切な物を得られず、その大切な物を得るのにも他者の助けが必要。情けないけどこれが人間。この映画からもそんな"人間臭さ"が漂ってきた。

今作においては、是枝映画に共通する事柄が随所に見られたのも大きな加点ポイント。今年公開の『海よりも〜』と同じく物語の舞台は"団地"が中心である事を始め、『海街〜』では女性の"手作りカレー"が出てくるのに対して、男性が主人公の今作は"レトルトカレー"。本木雅弘と竹原ピストルの異なった父親観は『そして父になる』をも彷彿とさせる。もう是枝映画の男版を見てるようで楽しくて仕方なかった。

あとは子供が効果的に使われるのも完全に是枝イズム。この監督も子供を使うのがかなりうまいね。中盤の子育て主夫みたいなシーンは「なんて多幸感溢れる映画なんだ」とニヤニヤしながら見てた。癒しを求めている人にはオススメしたい(笑)

映像も美しく、予告編で見るより大分明るい映画で、それでいてただ平和ボケしてるだけの映画でもないし最高の家族ドラマだった。個人的には『海よりも〜』より好き。西川美和の今後の作品もかなり楽しみになりそう。

2016.10.14
2017.4.27
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