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永い言い訳のDONのレビュー・感想・評価

永い言い訳(2016年製作の映画)
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極めて逆説的だが、人は理屈=正しさだけで生きているのではないということを、西川美和の脚本と演出は徹底して正確無比な論理と言葉=台詞でもって表現しようとしているように思える。

だから、身に沁み入るような、あるいは身を突き刺すような印象的な台詞の数々はあれど、“理屈抜き”で身に迫ってはこない。妻を失った本木雅弘が、なぜ竹原ピストル一家のもとへ身を寄せるのか、その決定的な瞬間や場面がどうしてもあったとは思えない。いや、本当はそのような決定的な瞬間が欠如していることこそが重要なのだが、その欠如が欠如として伝わってこない。何もないということを「何もない」と言い表すことはできる。だが、映画としてどのようにそれを表現し得るのか。

同様に、2人の子どもたちを含めた即興的な演技と演出もまた、堆積した過去=時間を持たない表層的な印象を否めず。やはり存在よりも言葉が先行している。結局のところすべては「言い訳」なのだから、論理的にはまったく正しいのだけれど。
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