天才的画才で贋作を作り美術館に寄贈する謎の男ランディスのドキュメンタリー。
ランディスから名作を寄贈された美術館の学芸員レイニンガーが最初に贋作だと気づき、確認したところ、全米にランディスによる贋作が発見された。30年間、寄贈され続けていたが、まったく気づかなかった多数の美術館。
至るところで発見されるランディスの贋作とランディスを追うことに囚われていくレイニンガー。まるで恋のように見える。レイニンガーは贋作者ランディスに認めてもらいたかったんじゃないかな。
ランディスに執着するレイニンガーと、追っ手のレイニンガーの存在に気づきながらも贋作作りをやめないランディス、両方を取材したドキュメンタリー。
ランディスの行為は犯罪には当たらないという。金銭の授受はなく、寄贈だから。ただ美術館に真贋を見抜く目がなかっただけ。
本人は「私は芸術家ではない。図画工作しているだけだ」と謙遜するが、騙す意図はみえみえ。
取材していく中でランディスは17歳から心を病み、何十年も薬を飲み続けていることがわかる。年は60代以降。
17歳で誇りに思っていた元軍人の父を亡くした。
子供の頃、裕福な両親と海外の美術館に行くことが多く、そのときに模写を覚えた。父は軍人から商人になったが真っ正直なため、騙されて荒れていった。ランディスにとって商人の父は偽物だった。
ランディスはこの経験を再現しているように見える。模写が巧かったことで両親に褒められた幸せな幼少期の記憶から、騙され亡くなった父を幸せに葬るために、「喜びの模写」をする。父を失った喪失感と無力感から誰かに力を与えたく「喜びの模写」を寄贈する。ランディスにとって美術館は家庭なのではないか。
長年の投薬で精神が蝕まれているが、知的で哲学的でユーモア溢れていた。
ランディスは贋作のみならず、聖職者になりすまし(コスプレ)、道行く人びとの幸せを祈る。「誰かのために役立ちたい、誰も助けてくれなかったから」という。
どんな悲しい人生を送ってきたのだろう。
「失くなった1ページを元の本に戻せたら素敵だろう」と呟く。
喪失感を埋めるために自身を父と重ね偽物になっていく。
縛りから解放される日が来ますように。