Tラモーン

ヒトラーの忘れもののTラモーンのレビュー・感想・評価

ヒトラーの忘れもの(2015年製作の映画)
4.1
『手紙は憶えている』からのナチス繋がりで。


第二次世界大戦、ナチスドイツ降伏後のデンマーク。捕虜となったドイツ人少年兵たちは、ドイツ軍が浜辺に埋めた大量の地雷の除去に駆り出される。ラスムスン軍曹(ローランド・モラー)は厳しい態度で彼らの監督にあたるが、次第に若き彼らが背負う責任に疑問を抱き始める。


静かながら緊張感に溢れ、単なる戦争映画としてだけでなくヒューマンドラマとして骨太な作品だった。

デンマークを占領したドイツ軍が、連合国軍の上陸を阻むために埋めた地雷の数は200万個以上。そしてその除去にあたったのは捕虜だったドイツ人少年兵たちで、半数以上が死亡ないし重傷を負ったという史実。

"諸君は憎まれている。恥知らずもいいとこだ"

ナチスドイツの犯した罪の残虐さから、虫ケラのように扱われ危険な任務へと駆り出されたのはおおよそ10代の少年兵たち。
浜辺を匍匐前進し、手探りで地雷を探し出し、手作業で信管を抜き出す。とんでもない緊張感と、食料もまともに与えられない過酷な環境。
共に寝泊まりし、さっきまで横で作業をしていた仲間が突然手足を吹き飛ばされ、バラバラに飛び散り、絶命する恐怖。
兵士と言えど痛みに苦しみ母親を呼び泣き叫ぶ姿はやはり少年でしかない。

少年兵たちの演技がとにかく凄かった。絶望と恐怖の中で少しでも希望を持とうとする健気な表情が苦しい。


そして彼らを厳しく指導するラスムスン軍曹を演じたローランド・モラーの迫力ある演技無しではここまでズシっとくる作品になり得なかっただろう。

帰還するドイツ兵たちを殴り付け、ナチスドイツにより占領されていた屈辱と鬱憤を爆発させる冒頭。他のデンマーク国民のようにドイツ少年兵たちを憎しみに溢れた態度で厳しく指導していた彼であったが、少年兵たちが健気に地雷を除去する姿を見、また亡くなっていく姿を見たことで心が揺れ動いていく。

"お前も他の連中も俺には必要だ。強くなれ"

憎むべきドイツ兵から、信頼する部下へ。
情が移ったのか、あるいは憐れみか。

皮肉にも彼らの心の距離を近づけ、また引き離すのも地雷の恐怖。

いくら撤去しても、いくら犠牲を払おうともなかなか減らない膨大な数の地雷。そして救いの無い現実。

"終わったら国に返すと約束したんだ。国に帰してやってくれ"

敵対国同士としてでなく、人間同士の約束を果たそうとするラスムスン軍曹の心意気が泣ける。その描写も大袈裟でないのがこの作品の素敵なところだ。


大人たちが始めた戦争とその後遺症に苦しむのはいつだって子どもたちだ。大人たちの過ちの代償を子どもたちが支払う世界が早く終わりますように。
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