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ヒトラーの忘れもののりのレビュー・感想・評価

ヒトラーの忘れもの(2015年製作の映画)
4.4
【感想】
デンマークの綺麗な砂浜と地雷や少年兵の死、という対比が鮮やかであった。自然の母胎、つまり生の根源である「海」と、人工的に造られ、死へと導く「地雷」の存在。本作は、対称的な両者が混在する違和感を描いている。
どこまで史実か分からないが、それを念頭につらつらと書き連ねる。
まず、デンマークの人達はドイツ兵を「悪魔化」している。つまり、彼らは鬼の子であり、自分たちとは異なる怪物のような存在であると認識している。だから、彼らの人権が蹂躙されようが関係ないし、餓死や爆死してもいいと考えている。
当初、軍曹も悪魔化して捉えていたが、少年兵と交流するうちに人間化するようになる。彼らのために食料を供給したり、自由を与えたり、一緒に遊んだりしていた。ここには、「ドイツ兵」というカテゴリーで見るのではなく、一人の人格として見る、つまり「切り離してみる作法」が形成されている。現代のヘイトスピーカーやクソフェミ、ウヨ豚にも見習ってほしいものである。
次に、軍曹の決断に感銘を受けた。命令に従うよりも、自分の心の声に従う。つまり、他律ではなく自律。処罰覚悟の命令違反。その姿は勇ましいし、素敵である。
「ハインツのジレンマ」という話がある。それは、抽象的にいえば、「道徳を取るか、倫理を取るか」と問題提起する寓話である。私もそうであるが、本作の指揮官も迷わず「倫理」、つまり自己の良心に従うだろう。というか、道徳、すなわち他者のまなざしや法律に従う生き方はしたくない。改めて、自分が何を大切にして生きていくべきか、を考えさせられた映画。

【要約】
ナチス・ドイツはデンマークを占領下においた。そして、連合国の海岸への上陸を阻止すべく、200万もの地雷を埋めた。
終戦後、デンマークにいたドイツ兵の捕虜は地雷の除去を命じられる。特に、今回、焦点が当てられたのは11人の少年兵である。
「2000人を超えるドイツ軍捕虜が除去した地雷は、150万を上回る。半数近くが死亡または重傷を負った。彼らの多くは少年兵だった」(エンドロールより)
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