なっこ

果し合いのなっこのレビュー・感想・評価

果し合い(2015年製作の映画)
3.1
恥ずかしながら江戸時代の武家に“部屋住み”なる扱いの人が存在することをこの作品に出会うまで知らずにいた。
武家には武家の苦労がある。冒頭から縁側にどかっと座ってどこかのんびりとした空気も残しつつ悲哀のある横顔の老人、仲代達矢。彼の悲喜こもごもの半生が、現当主たる甥の娘から相談ごとが持ち込まれるなかで次第に明らかになっていく。

愛らしい彼女の悩みは深刻だった。彼女の恋の物語と、かつての自分の若気の至りが生んだ取り返しのつかない悲恋の顛末とが、重なり合いながら物語りは展開していく。

老いた男の時折気が抜けたようにあげる笑い声はまるでピエロ。突き放すように笑う。己も、言葉も。あのときああしていれば、なんて己の未熟さをどれほど悔やんでも取り返せないことがあることを知り過ぎるほどに知っている。

武士という特権階級がお家を存続させていく為には、それなりの困難や犠牲がある。その中で思うように生きたいという個人の思いは、どこまで汲み取られていたのだろうか。
そういうジレンマは、いつの時代もどこの地域でも起こり得ること。その悲哀を、大事なものを失った過去の果し合いと、これから起こる避けられないもうひとつの果し合いを重ねながら見事に描き出す。

男も女も何と戦っていたのか。

果し合いや切腹。何事も刀で決着をつけようとすることを、現代の価値観から見れば、そもそも力で解決しようとするのがダメなんじゃないのなんて、思ってしまうけれど。この時代にはこういう倫理観を共有していたからこそ通る正義も起こる不都合もあったのだと思う他ない。それでも与えられた己の人生を、何を是として何を非とするのか、己で選びながら進むしかない。

役者仲代達也の存在感。

彼が演じることで役柄と物語に深みが与えられている。その顔を見ているだけで、勝手に物語を想像してしまうほどだ。それを堪能できる良いドラマだと思う。
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