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マネーモンスターのJIZEのレビュー・感想・評価

マネーモンスター(2016年製作の映画)
3.6
全米高視聴率の財テクTV番組が生放送中に乗っ取られた事で犯罪現場が生中継される人質事件を描いた即興リアルタイム型社会映画‼個のモラルや価値観を尊い拝金主義に警句を打つ作品の主題を賞賛‼意義深き作品だったと感じます。精巧に練られた脚本。まさに原題の『Money Monster』や舞台背景のウォール街から推測できるよう大金に目が眩み翻弄された怪物(人間)たちが富や名誉に溺れ尚人生の道を踏み外す,という弱者と勝者の陰惨な格差を金融取引の賄賂など例に挙げ社会問題に染み込ませる特に後半部はエモーションナル度が高いぎっしり詰まった映画でした。作品のストーリー自体もTV番組で紹介した株式情報を鵜呑みにした視聴者が投資で多額の損失を被り全財産を失い復讐を誓う,という切り口自体は超個人的でミクロな動機です。同じ金融物でも今年3月に監視した株世界の不透明感が波打つ『マネー・ショート(2016年)』と大違いで監督ジョディは複雑な煙に巻く構造にしたくなかったんじゃないかと。本編を観て改め感じた。まず観る前は予告編などから籠城型の狭い構造を取るのかと事前に危惧してましたが実際は前半部(スタジオ内)と後半部(ウォール街以降)での位置関係。主に拘束する側と拘束される側の今居る立場が違ったバランスで前半から後半に反転する描き方も痛快でした。社会的制裁を浴びる必要がある人間がああなる顛末を踏まえれば明白だろうと(社会的な鋭い目線込みで)。なので単なる逆恨みの人質事件に主題が終始せず報道の意義をデフォルメさせ映像で実際に映し出す事実を正確に最後の最後迄撮り続ける誰が観ても興奮して堪能できる娯楽エンタメ映画に株知識を除けば昇華できてたように感じます。以上の理由から綿密に練られた脚本だなと深々思いました。

→作品概要
監督は長編監督作が第四作目となる名女優ジョディ・フォスター。主演には『オーシャンズ12(2005)』以来11年振りに共演を果たしたジョージ・クルーニーとジュリア・ロバーツ。番組をジャックする男カイル役に『不屈の男 アンブロークン(2016年)』の若手俳優ジャック・オコンネル。また本作は先日監督であるジョディ・フォスターが日本に来日した事で幅広い注目を浴びました。

→番組の罪と損失の真相。
前半は予告編でも察しの通り番組ジャック犯の男カイルが財テク番組の司会者であるリーにボタン型の爆弾仕込みのベストを着用させ人質に取りスタジオ内を占拠し不利益を被った告白を嘆きのよう怒り狂い続けていくんだが,特にジョージ・クルーニー扮するリーの対比の取り方が絶妙だった。主に開幕で数分で魅せたエゴや惰性に満ちた笑顔が拳銃を顔面に突きつけられる度に罪の意識を懺悔するよう彼の余裕な表情が剥がれ落ちてく。自分を一度見失ったor真の人生を諦めた人間が皮肉にも人質犯の言動により本当の彼の素顔が呼び戻されるよう蘇生されてく感じは実に面白かったですね。まさにピストルを突き付けられ死を悟った人間が臆病風に吹かれながらも生を肯定し続ける。コレは先月観た『人狼ゲーム3(2016年』にも通づる。一度死を前にした人間が何もかも投げ捨て我に帰るよう無我な境地に辿り着く。この様をジョージクルーニーは必死な形相で体現できてたよう感じました。もう一人の主役であるジュリアロバーツ扮するパティの無線で指示しモニター室から的確な助言を送り続けるキャラの役割も違った角度から女性優位な部分を訴え続ける役割を担い意図した配置だと感じました。公安側の潜入部隊がスタジオ内に潜入するくだりや外部のレポーターと指示を取り真の黒幕であるアイツと交渉に嗅ぎ付ける場面の連なりは振り替えれば然程場面単体での意味を成さずスタジオ内のアクシデント要素をもう少し手を加え練ってもらいたかった後味です。後半部で明かされる損失の真相はネタばれ回避のため言及を避けますが割と安易に予測できるラインに落とし込んだため実直な外練味なしの描き方は賛否あるように感じました。娯楽向け内容と真実を報道する主題向け内容両方の均衡性を保つニュアンスで。

→総評(富や名声で価値は測れない)。
監督ジョディ・フォスターの50年キャリアによる生き方の根源,主に彼女の人生観が色彩豊かに飛び出した想いが幾分に詰まる作品に感じました。また物語展開を要約すれば主に"価値を品定めしてしまい人生の意義を見失った人間が過去を清算して懺悔する話"に思えました。表面的な上っ面の事情に翻弄された人間たちの愚かさが身に染みる。また上映時間99分設定で映画内の人物と観客側の時間感覚が同時進行的に並走するリアルタイム劇を作品の構造で採用した事もサスペンスを盛り上げる手段で理に敵う設定だった。終盤クライマックスでも株暴落の真実が明るみになり全世界にその事実が報道されるに連れ悔い改める者と懲りずに目先の快楽に溺れ過ちを続ける者とが両方存在し続ける事実を映画的に観客側に報道した事は秀逸な一幕だったよう感じます。少なくとも最後のあの描写を入れた事で観客側に対し警句を打ちフィクショナルな世界に作品が留まらなかった事は褒め称えたい。また今回主役を演じたジョージ・クルーニーは前作『ヘイル・シーザー(2016年)』に引き続き撮影が押し気味にタイトなスケジュールで敢行されたそうでお疲れ様とエールを送りたい。終盤で明かされる拳銃の意外なカラクリから緊張感が一瞬で溶ける場面や人質事件中にスタッフであるアイツ等は奥でなど不謹慎な小粒にユーモアを交え笑える描写も沢山あります。小難しい株知識や社会派部分を切り取っても十分な娯楽エンタメ映画に消化されてるため監督ジョディの人生観を投げ掛ける心情が反映された渾身の1本です。同じ目線や姿勢で彼等が今居るスタジオ内に入り込んだ者勝ちな作品ではあるので劇場で是非お勧めします。
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