このレビューはネタバレを含みます
語りたい主張とエンタメとしての面白さが両立する良作。
ポリコレ映画かと思って嫌厭していたが、表面的なポリコレに対して毒を吐き、"完璧じゃない人"に対する愛に満ちた映画だった。
バービーはあらゆる理想的な女性像。時代の変化に合わせ仕事、人種、役割など多様性に合わせ変化はしつつも求められるのは"完璧"な女性の姿だった。
バービーランドはまさにその完璧な世界の象徴でありながら、悩みもなく歪な世界だった。
現代でもひとたびSNSを開くと自分以外の"完璧"な生活がすぐに目に入る。それによって完璧じゃない自分と比較して落ち込んでいく。
バービーが言う通り、幸せな家族も、孤独に悩む人も老いた老人もその不完全な人間が姿が同様に美しいと思うべきなのかもしれない。
でも何より男目線としてはこの作品はケンに救いがあったことも嬉しかった。この手の性差的役割の苦しみを描く時女性が主語になりがちだが、その苦しみは男性にも同様存在する。
ケンはバービーのおまけという家長制時代の女性の苦しみと、マッチョイズムによる強さ競争に疲弊することで両方を体現して苦しんでいた。
"全ては自己理解の欠如が招いた争い"とあるとおり老若男女問わず、全ての人が"あるべき姿"ではなく"自分したいこと"を理解して、実現できる世の中を目指すべきなんだと思った。
なんといっても世界観、コメディ演出などエンタメ要素が非常に良質。
バービーファンにはおそらくグッとくるようなキャラ、演出が多く、バービーの作り出した世の中に対するアンチテーゼでありながらバービー愛にも満ちた映画なのは本当に秀逸だった。
あとゴッドファーザーの感想を語るシーンを見て胸が痛い。