きのこ

バービーのきのこのレビュー・感想・評価

バービー(2023年製作の映画)
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SNSでのバーベンハイマーのノリを見てしまって遠ざけてしまっていたが、どうしても飛び抜けて明るい映画を観たい気分になり視聴を決意。
サウンドトラックも良いし、劇中歌も楽しみに。
結果、コメディと思って見始めたのに、めちゃくちゃ真剣にフェミニズムをやっていて笑うタイミングがなかなか掴めず、結局真面目に観てしまった。

序盤「カウンター的なエンパワメント全開のノリでいくのね、オッケー!」と思わされてニコニコしていたら、バービー&ケンという表象の功罪やマチズモな社会についての畳みかけで思わず居住まいを正した。
“女性側”のフェミニズムは“男性側”のフェミニズムと地続きであり、有害な男性性を解体することなく達成は出来ないよね、という段階的な示唆が物語の構成として上手く機能している。

“ケンたち”の物語が走り出す時に、それはNetflixの「軽い男じゃないのよ(邦題)」でやったことでは?という不安が過ったのだけど、女性側のミソジニーの内面化と解毒を描くことによって明確に別の物語になっている。
「軽い男じゃないのよ」で示していた「マイノリティであるか」の問題ではなく、明確な「ミソジニー」の問題として丁寧に扱われていて好感を持った。
インタビューで語っていたネタだけれど、「庭で埋まっていたケン人形」に必要な物語でもあった。

しかし、20センチュリーウーマンの中のグレタが作ってるのか?と思ったほどにあのキャラクターとの親和性を感じたのだけど、それは本人との親和性が高かったということなんだろう。
レディバードや若草物語の文脈という制約の中で伝えようとしていたことを、バービーという表象を利用することで理論を土台に自由に物語を組み立てられたからこそ、このタッチなのだろうなと感じた。

あの場面の劇中歌Man I Amをクィアであるサムスミスに歌わせているのも、自覚的なのがわかるし、センスが光っているなと。
セットの切り替えや色遣いで、現実の歪な社会構造を表しているのも良かったし、そういった塩梅や感性も信頼できて、いやー、今後も期待できる!

細かな描写まで意識して緻密に作られているものだから、時々「あ、もうちょっとそこ見せて!」というところもあり、荒削りに感じる、その切り替えの踏ん切りの良さも持ち味かも。
歴の問題かもしれないが、ここが尖っていくとまた面白い気もしている。
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