りょう

バービーのりょうのレビュー・感想・評価

バービー(2023年製作の映画)
1.8
 最初のポスタービジュアルとかでは、「いよいよハリウッドもネタ切れか」という印象で、ほとんど観るつもりはありませんでしたが、アメリカでは大ヒットしたし、日本でも評判がいいので観ようかどうか迷いました。どうやらジェンダー論を展開する社会派の物語らしいとか…。
 正直なところ、ほとんど共感できませんでした。映像や音楽などがいかにもハリウッドらしく、コテコテのビジュアルが徹底されたエンタメとしての完成度はなかなかです。
 ただ、女性と男性の社会的な地位などをここまで固定観念的に表現して、明瞭な境界線を描く必要があったのでしょうか。両者の分断を助長するような印象が強烈で、あの喧騒を収束させるための本来のメッセージがすんなり理解できないままでした。
 男性の立場で観ると、ケンたちの容姿や言動がステレオタイプすぎて、気色悪いとしか思えません。あんなものを理想としていない男性のほうが圧倒的に多いはずですが、女性にはそう誤解されているのかもしれません。ちょっと吐気すら感じたおぞましい光景でしたが、男性がとことんバカっぽく表現されるので、一方的に誹謗中傷されている気分にもなります。これをコメディとして笑いとばすには、ちょっと一線を超えているし、男性優位の社会構造を批判するためのアプローチとしては、あまりフェアじゃないです。
 現代的な価値観を反映するなら、女性と男性の境界はもっと曖昧だし、ジェンダーの価値感などにはグラデーションがあります。性自認などとも無関係に中性的な存在でありたいと思う女性・男性も少なくないはずなので、映画でのジェンダー表現としては4~5年ほど後退したような印象です。
 ヘタに女性の生きづらさを強調すると、「男性だって生きづらい」という歪んだ反論を招くことが多くなっています。それぞれの性別役割分担のバイアスなどが原因で、この作品はそれを皮肉っているはずなのに、そのメッセージがストレートに感じられなかったのが残念です。
 でもなぜか、「マトリックス」の世界観の解像度が高まったような気分になったことが不思議でした。
りょう

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