三樹夫

アイリッシュマンの三樹夫のレビュー・感想・評価

アイリッシュマン(2019年製作の映画)
4.0
トラック組合のいち運転手からマフィアの殺し屋まで上り詰めた主人公の一大絵巻。デニーロ、ジョー・ペシ、パチーノとマフィア俳優大集合で、特に60年代70年代はすべての事柄の裏にはマフィアありの、3時間半に及ぶ超大作のマフィア史観ドラマになっている。監督役者共に老人ばかりな上に、映画自体も老人が自身の昔話を語るみたいな構造になっているまごうことなき老人映画となっている。スコセッシのマフィア一代記と言えば『グッドフェローズ』があるが、『グッドフェローズ』はマフィアの生活をハイテンポで描き、こいつらのことクズと思ったか知らんがでも楽しかったんやでともの凄いアゲ感を持った映画だったが、この映画はスコセッシの年齢も当時もうすぐ80代というので老齢になったのもあってか、おじいちゃんの終活のようなどこか寂しさがあり、またマフィアの生活なんて碌なもんじゃねぇなと思わせる、マフィアをやっていることの楽しさは描かれない。役者はメイクやCGで若い時も演じているが、背中の丸まり方や動きがどうしても老人感があり、それ故か物語のテンポ自体は遅くないのだがゆったりした印象を持つ。
入れ替わり立ち代わり数多くの色々な人物が出てくるが、デニーロ、ジョー・ペシ、パチーノの3人に注目しておけば大丈夫で、やたら折れない上に敵を作るパチーノに困るデニーロがジョー・ペシとの間で板挟みになる。

主人公は娘ペギーから死ぬほど嫌われるというので、マフィアなんて碌なもんじゃねぇなと思わせるのに大きく寄与している。主人公もジョー・ペシもペギーからは嫌われているが、それもそうで2人とも自分のことしか考えておらず、何をするにも相手は不在となっている。主人公の俺は悪い父親だったけど許して欲しいという娘とのやり取りのシーンは、主人公の相手の気持ちは置き去りにした自分のことしか考えていない自分勝手さと独善性が出ている。主人公に限らずマフィア全員がトロフィーワイフとしての結婚しかしておらず、前妻と現妻が一緒にいるというので、ほんとにこいつらゴミクズだなというのが伝わってくる。出てくるマフィアのほとんどが殺されるか刑務所行きなのでマフィアって碌でもない感が高まる。後、話が通じそうなのが1人もいない。ほぼ全員狂人。

スコセッシ映画特有の恐ろしい絡み方してくる奴は健在で、耳の話と魚の話のやべー奴が来た感。とんでもなく困る恐ろしい絡み方をしてくる。そこそんな固執することかというのとそんなに激高することかというので、理解ができない絡み方をされる。たけし映画もそうだが、しつこいというのは恐ろしい。しつこさは時に凶器になる。

『グッドフェローズ』、『カジノ』、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』と来てこの映画というこれら4本は同じ映画だろう。『カジノ』は普通の人が狂人2人からえらい目に合うように見えたりするが、どの作品の主人公も碌でもない奴である。この映画は娘から死ぬほど嫌われているというので、主人公は碌でもない奴というのがより分かりやすく提示されている。
『グッドフェローズ』、『カジノ』、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』は最後の主人公の総括が、クズと思ったかもしれんが楽しかったんやという終わり方だったのがこの映画はただ寂しく終わっていく。
老人の回想という作品のフォーマットもさることながら、かなりの高齢にさしかかったスコセッシの今までの人生を振り返った悔恨も反映されているが故のこの寂しさのように思え、そういうところもスコセッシの終活のような作品に感じられる。
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