蛸

レディ・バードの蛸のレビュー・感想・評価

レディ・バード(2017年製作の映画)
4.3
これは「Call me Lady Bird.」と言い放つ、ここではないどこかに憧れる少女が等身大の自分自身を受け入れるまでの物語だ。
片田舎に暮らすボンクラ感満載の拗らせ女子の青春模様が、パステルカラーを上手く使った優しい色遣いの映像と軽快なテンポで描かれる。
短いエピソードが(淡々と)テンポよく重ねられるリズムがとても心地よい。エピソードの余韻を感じさせる一瞬手前でシーンが切り替わる編集が見事。
確かに「主人公が東部の大学に進学できるのか」というドラマの引っ張りはあるけれど、単純にそれぞれのエピソードが面白いから見ていて飽きない。
全体的に、主人公を突き放しつつも優しく見守るような視線がとても良かった(劇伴の使いどころもピンポイントで過剰ではない)。

映画を通して、彼女の「憧れ」は少しずつ裏切られていく。そして、それは主人公にとっての成長に他ならない。自分ではない何かに憧れ続けていた主人公が終盤でささやかな「決断」を下すシーンの、ささやかさにやられた。「自分が自分であることを誇る」ようになれることこそ成長。

主人公の名前をタイトルに据えながらもそれを取り巻く登場人物たちの描写も丁寧。
それでも映画の中心は主人公と母親の関係性にあり、だからこそ終盤の、車を運転する母親を真正面から捉えた長回しのシーンに目頭が熱くなる。
とてもステキな青春映画の新たな傑作。
蛸