難航する仕事と年老いた母親の介護に追われる、ひとりの女性映画監督を主人公にした傑作。
タイトルは「MIA MADRE」だが、自分ではどうにもならないものを前にした人間の姿という意味では、モレッティが繰り返しえがいてきた「救ってくれない父権的なもの」と「わたし」のものがたりの変奏だ。
そして、そこに母的な存在がもたらしてくれるものはなにかが提示される。
作品全体に漂う閉塞感にじつにリアリティがありながら、それは少しも重苦しいものではなく、モレッティ監督のつくる自然で真摯な画面に引き込まれっぱなし。
コメディセクションもシリアスなシーンも、すべてがひとつにつながっていくその奇跡的な手腕には感動しかない。