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日本列島のakrutmのレビュー・感想・評価

日本列島(1965年製作の映画)
4.5
米軍キャンプ軍人の不自然な死の再調査を依頼された通訳の男性を通じて、戦後の日本の閉塞感を描き切った、吉原公一郎の『小説日本列島』を原作とする、熊井啓監督の社会派ドラマ映画。前年に『帝銀事件 死刑囚』で監督デビューした熊井啓監督のデビュー2作目である。この頃の日活でもこのような骨太の映画が制作されていたことに軽い驚きを感じたとともに、これほどの完成度の高さには素直に感動した。熊井啓監督の作品はこれが初鑑賞であるが、もっといろいろと観てみたい。

本映画の内容は、下山事件などの現実の事件にも触れながらもフィクションであるが、そこで一貫して描かれているのは、日本の司法権が及ばない部分が存在するという米国占領下にある戦後の日本の状況であり、その状況に対する日本人の閉塞感や諦めである。程度の差こそあれ、この状況は日米安保に基づいて米国軍が駐留する現在の日本でも変わりはないことも認識しておくべきであろう。

このような当時の日本に対する監督のメッセージが、芦川いづみ演じる父を奪われた小学校教師の女性を通して、映画の最後のほうで語られる。日本という国家を象徴する国会議事堂が窓の外に映る喫茶店で語り、国会議事堂を背景として颯爽と歩いていく芦川いづみがとても格好いいのである。また映像そのものも、上空から撮影した引きで追う側と追われる側を同時に捉えるショットや、外の様子を上手く見せる室内シーンなど、なかなか魅力的である。
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