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フリーランスのchibakoのレビュー・感想・評価

フリーランス(2015年製作の映画)
4.0
JAIHOで「フリーランス」。ナワポン・タムロンラタナリット監督、2015年のタイ映画。
昨年のぴあフィルムフェスティバルでの特集上映で見逃していた作品。
JAIHOで24日まで配信ということであわてて観た。

写真加工に長けたフリーランスのグラフィックデザイナー、ユン。
彼の仕事は業界内で評価が高いが、その実績はどんなに無理な納期でも睡眠時間もプライベートもないがしろにして仕上げることで維持されている。
当の本人は不眠不休で働くことに充実感を持っており、頼まれた仕事はすべて受け、休日という概念すらなく、5日間完全に徹夜して自己記録を更新したことを誇るくらいである。
だがそんな無理な生活がいつまでも続くわけもなく、ある日彼の全身に発疹ができてしまう。
痒みに耐えかねたユンは病院に駆けこむが、そこは一度の診察で彼のひとつの仕事の稼ぎが消えてしまうほど高額であるうえに、一向に症状が治まる気配もなく、やむなく恐ろしく混みあうが保険の効く公立病院に行くことにする(タイの健康保険制度はあらかじめ指定してある病院でしか保険が効かないらしい)。
長い待ち時間を経て彼を診察したのは女性研修医のイム。まだ仕事に不慣れなせいか熱心だがちょっと患者との距離の取り方がおかしい彼女は、ユンの「友人として」、処方された薬をきちんと飲むこと、毎日運動すること、夜の9時には就寝すること、余暇をとることを指示する。
それは彼にとって到底無理な要求なのだが、月に一度の診察でしか会えないイムに心を惹かれたユンの生活は少しづつ変化し、同時に彼はデザイナーとしてのキャリアの危機を迎える。

ナワポン・タムロンラタナリットのどの作品にも、軽妙な語りの背後に、個であるがゆえの本質的な寂しさがひそんでいる。
孤独と呼ぶほど閉じてはおらず、外に向けて自分を開いていてもその空疎は満たされることがない。
互いを慈しみ、心を通わせながらも消えることのない分かり合えなさと距離感、そこに彼の作品のおかしみと美しさがある。
本作ではユンとイムのみならず、ユンに仕事を持ってくるプロデューサーであり、親友でもあるジェー、セブンイレブンの夜勤で働く友人のガイなどとのやりとりの反復によってそれが表現される。

タイ語の原題”ฟรีแลนซ์..ห้ามป่วย ห้ามพัก ห้ามรักหมอ”は「フリーランスは、病むな、休むな、医者に恋をするな」という意味であるらしく、過去の監督へのインタビューによるとタイのフリーランスの金言をもじったものだというが、この作品においてそれはもちろん反語である。
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