「この部屋、こんなに小さかったっけ?」
ジャックのこの一言にこの作品が集約されているなと感じた。
あの小さな部屋の中で生まれ育ったジャックはあの部屋が世界だった。限りなく広くて、想像力を掻き立て子供心をくすぐるものに満ちていて、いくつかの決め事がある世界。
ある日を境にこの世界の外側に遥かに広がる世界が在ることを少年は五感全てで体験していく。
それはあまりに広く、テレビの中にしかいなかった数多の人間や生き物が住んでいる。
彼らは似てるけど1人1人違う。
そして初めてのものに満ちている。
電話の使い方から人との関わり方まで、ひとつひとつを全身で学んでいくジャックの姿は観ていて悲しくもあったけどずっと見守っていきたい気持ちにもさせてくれた。
あの部屋から出さえすれば大丈夫。世間は残念ながらそうではなかった。そのために疲弊していく母の姿と対照的にスポンジのように全てを学び世界にも溶け込んでいくジャック。その対比もまた印象的で。
この作品は監禁からの脱出映画であることを押していたけど、その実じっくりと描写しているのはその後の彼らの姿である。
それは痛さも辛さも悲しさも怒りも幸福も喜びも内包した裸の感情に満ち満ちていて、ジャックを通して私たちはまた、「今生きている世界の狭さ」をも痛感させられる。
部屋の外。アメリカのある町で世界の広さを実感したジャックにとって、限りなく広かったはずの部屋はあまりにも狭く小さいものになっていた。
この町の外にも世界はあり、アメリカの外にも世界はあり、地球の外にも宇宙という空間が広がっている。ジャックはこの先、その広さをどんどん体験していくんだろう。
そんなジャックの側で母親も、自分の幸せをひとつまたひとつと掴んでいきますように。