kou

マダム・フローレンス! 夢見るふたりのkouのレビュー・感想・評価

3.0
《真実こそが答えじゃない》
スティーブン・フリアーズ監督作。予告編を見た限りではあまり予想できなかった展開で、とても驚きのある作品だった。ただの感動作だと思っていたのだが、ベタな話でなく、とてもビターなテイストを持つ、大人な作品だと思う。観る人によっては賛否が分かれそうだが、僕としてはとても納得のいく部分がある作品だった。

実在の人物であるフローレンス・フォスター・ジェンキンス(メリル・ストリープ)、彼女は歌うことが好きだが、絶世の音痴だった。彼女がカーネギーホールで歌うことになるまでとその後、そして彼女を支えた人達を描いた作品。メリル・ストリープ、ヒュー・グラント等の豪華なキャストも勿論素晴らしかった。

メリル・ストリープ演じるフローレンスは自分が音痴だと気づいていない人物だ。彼女の勘違い、夢を必死にヒュー・グラント演じるシンクレアは守っていく。彼女が傷つかないように、自分が音痴だと気づかせないように。そしてその結果、カーネギーホールで歌うことにまでなってしまうのだ。

この映画でいちばん重要なのは、とても可愛らしいメリル・ストリープだろう。ある意味純粋で、世間知らずといえばそれまでだが、その無知さ故に自分のやりたいことを突き進めていく。そしてそんな妻へシンクレアは必死に現実を見せないようにするのだ。それは劇中の新聞記者が言うようにある意味残酷なことではあるが、僕は真実を語ることだけが正解だとは思わない。単なる美談に終わらない、おとなな作品だった。

それは、シンクレアの人物像にも現れている。彼はフローレンスを支えながらも、愛人がいるのだ。夫婦という関係が、単純な愛だけで語れないという所も「正しい、正しくない」で測れない関係だと思う。それでもシンクレアという人物がラストに見せる表情に、妻への強い愛情を感じる。基本的にとても笑える作品であるが、それだけで終わらない大人な作品だった。
kou

kou