Atsui

チリの闘いのAtsuiのレビュー・感想・評価

チリの闘い(1978年製作の映画)
5.0
非政治的でいられることは幸福の一要素だと思っている。追い求めるものが個人の裁量の範囲に収まっているということなので。この映画で、それがどれほど貴重なのかと感じ入った。
第三部の労働者の人たちはみんな前向きに物事を語っているけど、たぶん一過性のもので、仮にあのまま団結を叫んでも結局は内輪揉めして空中分解してたと思う。あの段階で夢と消えたから、理想的なように見えているだけだろう。
主義の様態にかかわらず、労働者とか若者とかそれまで非政治的だった人が政治に関心を持つってのは、現状のシステムでは自力で幸福になる見通しが立たない……自分が暮らすのと同じ社会の中に自分の幸福を阻む敵がいると認識してるってことだから、どうしたって対立が生まれる。そこで自分と近い人たち同士、小さな差異に目を瞑って共闘・勝利したところで、今度はスルーしてた差異を原因に分裂してまた対立、最後に何が残るやら。
社会というものが生まれて肥大化し始めたときからずっと人類は終わりに向かってるんだなってことがよくわかる。自分はまだセーフだと割り切って安穏と暮らすか、そうでない人や今後の世代のために少しでもシステムを改修しようと頑張るか……どっちが良いとかは思わないけど。
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