まつこ

チリの闘いのまつこのレビュー・感想・評価

チリの闘い(1978年製作の映画)
5.0
チリは何と闘ったのだろう。

1975年〜78年というたった3年間に起こったドラマ。

アジェンデ政権とブルジョワジーとの対立、軍事クーデターによる独裁政権への移り変わり、その頃の民衆の様子を三部作で描く。

労働者階級と特権階級との闘いがいろんな問題を巻き込んで国家の破綻を招く。そこに絡む米国。

チリの国会に40人もCIAの議員がいただなんて…
社会主義に対する懸念もわかるけど、国の政治にこんなにも他国の人(しかもスパイ!)がいるのって考えただけで恐ろしい。内部から蝕まれ、操られ、抵抗する度に不穏な空気が漂う。

アジェンデ政権のお陰で生活ができるようになった人たちがいる反面、利益や土地を取り上げられた人がいるのもまた事実なんだよな。集団の中で差異が生まれないわけがない。だって、労働者の中でさえ二つに分裂していがみ合うんだから。

左だとか右だとか、そんなことより、最低限の生活を守れる環境が整えばいいのになんて思うけど、きっとその底はいつまでも上げようと思えば上がり続ける。上げた分はどっかが減るんだから不満もでるよな。

きっとこう思うのは、資本主義で民主主義、他宗教観をもっている日本人だからこそなんだろうな。
どっちつかずもどうかなと思うけど、グレーを受け止めることができる曖昧さを育ててくれたことに感謝している。

「アジェンデ!アジェンデ!民衆があなたを守る!」という叫びを聞いていると胸が苦しくなった。行進している人々の思いがスクリーンから溢れ出し涙が止まらない。ポスターカットにもなっているアジェンデ元大統領の演説シーンは特に惹きつけられるものがあった。

グスマン監督が劇映画を撮るのをやめ自国の現状を撮りたいとドキュメンタリーに転向したというのも頷ける。どの画も作りものではないのにとても劇的で映画的。ドキュメンタリー作品には監督の意識の志向性が映し出されるものだからこれが全てではないのだろうけど闇に葬られたチリの近代史をもっともっと知りたくなった。

観てから随分経つのだけど、なかなか感想をまとめられなかった本作。個人的には1.2部のガッツリ熱のこもった感じが好きだけど、そこから民衆に視線を移しメロディアスなケーナが響く異色の3部も面白い。

ああ、もう一度みたい。
こんな傑作にはなかなか出会えない。

平和革命によってもたらされた思想が軍事力によって破壊される様がそのまま観られる本作は、何ものにも変えられない熱量が宿っていた。
まつこ

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