柚子

帰ってきたヒトラーの柚子のレビュー・感想・評価

帰ってきたヒトラー(2015年製作の映画)
4.2
これはすごい。
一見、現代にヒトラーが蘇ってハチャメチャなことをする「不謹慎コメディ」という新しいジャンルかと思いきや、しっかりメッセージ性もあり鑑賞後は少しゾッとした。

20世紀を代表する独裁者のヒトラーが戦後70年以上が経過した2014年に生き返り、高度に発達した文明技術に驚いたり動物と戯れる姿が可愛い(銃殺してるんですけどね)。
さすがは元国家元首とでも言うべきか、自身がおかれている状況を素早く飲み込むやいなや(笑)、21世紀現在のドイツ国民の生の声を聞いてまわる。
すると聞こえてきたのは戦後なお変わらぬ実情。
最初はヒトラーにそっくりな面白おじさんとして扱われていたのが、国民の声に寄り添った巧みな話術によって世界中の人々は魅了され、次第に大きな力となっていく。


終盤、「ヒトラーは選挙で選ばれた」という重大な事実が彼自身の口から告げられた時、誰もがハッとしたに違いない。
彼は稀代の悪人ではなく、人々が作り上げた世相の上に立っていた、この事実を忘れてはならない。
これを見た後に現在の世界情勢や作中に映ったヒトラー(そっくりさん)のインタビューに笑顔で答えたり記念撮影をする地元住民や観光客の姿を鑑みて、ナチス政権というものが決して遠い昔の遠い国の、よその話だなんてもう二度と思えなくなる。

前半、面白おかしく笑っていた現代の私達に、後半たたみかけるように鋭い爪痕を残してくれた作品だった。
柚子

柚子