櫻イミト

メディアの櫻イミトのレビュー・感想・評価

メディア(1988年製作の映画)
4.0
カール・デオドア・ドライヤー監督の遺した脚本を、同郷デンマークのトリアー監督がリスペクトを込めて映画化したギリシャ悲劇。 デビュー作「エレメント・オブ・クライム」から連なるヨーロッパ3部作の間に制作された初期作品。

DVDに収録された画質がまるで8ミリフィルムの様に劣化していて最初は気になった。しかし観ているうちに尋常ではない画作りが伝わってきて、劣化画質も映像効果のようにさえ感じられた。トリアー監督の初期作品はストーリーが観念的で、気合を入れて観ないと退屈になりがちなのだが、本作はドライヤー監督の脚本がベースなので解りやすく、ストレートに画作りの凄さを堪能できた。特に後半に繰り出される“風”を表現した映像には眼を見張るものがあり強く印象に残った。本作の映像について、タルコフスキー監督との類似を指摘するレビューが見受けられるが、どちらかというと弟子にあたるアレクサンドル・ソクーロフ監督に近いと思う。

パゾリーニ監督の「王女メディア」(1969)と比較すると、本作は物語の前半が大幅に省略されている。メディアとイアソンの蜜月が省かれているため、本作だけだと熱愛が悲劇を生んだという構図は解っても共感はしにくいと思われる(なのでパゾリーニ作を観てから本作を観るのがおススメかも)。一方、後半の悲劇に対してはアプローチの仕方が違う。本作は情念と憎しみの描写に力が入っていて残酷性も高い。この辺は後のトリアー監督作品の萌芽が見える。

ラストカットはドライヤー監督「怒りの日」(1943)へのオマージュとなっている。あの形象の示す意味が未だにわからない。わかる方がおられたらぜひご教授願いたい。

テレビ映画の中編ではあるものの特筆すべき映像が観られる力作。初期のトリアー監督作品の中では最も好みの一本となった。
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