そーた

無限の住人のそーたのレビュー・感想・評価

無限の住人(2017年製作の映画)
4.0
漫画の金字塔

この映画の制作発表があったとき、
正直ほんとに真剣にやめて欲しいと思いました。

まして、万次がきむたく!?
監督が三池さん!?

もう嫌な予感しかしませんでした。

だって、この無限の住人ね、
何を隠そう、僕が一番好きな漫画なんです。

だから、実写化なんてしないでそっとしておいて欲しかった。

だからこの映画。
結論から言いますね。

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最高でした。

万次が万次だった。
天津が天津だった。

そしてなにより、無限の住人の世界観が、
上手く再現されていたことにびっくりでした。

原作ファンとして多少目をつぶらないといけない点はありましたが、
あの長編を2時間強の尺に納めるためには致し方ない。

原作30巻分に散らばる主要エピソードを器用につなげて、
ラストまで一気に突き進む。

とにかく凄いのが、圧倒されてしまう殺陣の数々。
スピード感に溢れ、荒々しく、痛々しく、血生臭い。

手持ちカメラ風の激しくぶれたカメラワークと、
平行移動を活用した流麗なカメラワークとがうまくミックスされ、
静と動が見事に表現されていたように感じます。

ただ、戦闘に次ぐ戦闘で少々疲れてしまうのは正直なとこ。
まぁ、和製ザ・レイドということで無理矢理納得するようにしています。

さて、肝心のキャスティングです。

キムタク。
いやいや、木村拓哉。

本当に素晴らしかった。

キャスティング発表を最初に聞いたとき、
拒絶反応を示してしまい本当に申し訳ございませんでした。

特にファンでも何でもないんですが、
切られまくり血へどを吐いていつもギリギリの戦いをする万次を熱演してくれたこと、
深い絆で結ばれた凛へのもはや依怙贔屓と言い換えても良いような真っ直ぐな愛情を存分に味わえたこと、
本当に感謝です。

その凛役の杉咲花。
凛にはもう少し色っぽさがあるんだけれど、
でもガキっぽくて気の強い初期の凛をうまく表現できていたと思いました。

鼻水たらして万次に食らいつくあの表情。
原作よりも凛の抱える重い決意が伝わってきた気がします。

いや~、この二人の掛け合いは見ていて気持ちが良かった。

特に万次を「お兄ちゃん」と呼び、
万次からそこは「兄さま」だと訂正されるシーン。

漫画でも重要なシーンなんだけれど、
漫画では味わえない映画特有の美しさを感じました。

付かず離れずな二人のやり取りの奥、
小雨が静かな川の水面に波紋を生む。

それを静かなカメラワークの長回しで包み込む。

息を呑みました。

殺陣シーンの激しさとは対称的に、
静かでとても優しい場面。

何故だかアクションシーンよりもこのシーンをもう一度見たいと思いました。

ここでふと、漫画の最終話を思い浮かべてみる。
僕にとってはすごく大切な最後。

不器用な万次の優しさ。

今回の映画も何らかの形であの結末と繋がっているんだなと思うと、
実写で繰り広げられた万次と凛のやり取りは、
その最終話を尚更に心震わせるものにしてくれる。

そう心から思えたのならば、
今回の映画は素晴らしかったと言わざるえません。

僕にとっての漫画の金字塔、
無限の住人。

映画特有の表現力が、
その原作に新たな息吹を与え、
そしてそれは「血仙蟲」のごとく、
沙村広明の代表作を無限の金字塔たり得る存在にしたんじゃないかと、
半ば大袈裟に考えてみたい。

それこそ、
制作発表を受け入れなかった僕ができる唯一の罪滅ぼし。

そんな呵責を胸に、
二度目の鑑賞のため、
チャリにまたがる。

春の風がとても気持ちが良い。
そーた

そーた